[P5Sのネタバレを含みます]
[未プレイの方向け状況説明↓ ガッツリネタバレです ]
ふんわり事前解説
ジェイルとは、パレスのようなもの。
夏芽安吾…小説家。今回の改心の標的。 数々のラノベを切り貼りしたハリボテ代表小説が、ジェイルの構造に影響しており、ジェイル内では、王の夏芽安吾は魔王であり、侵入者のジョーカーを『勇者』と呼んでいる。
在り来りな四天王が存在し、在り来りな言葉で勇者を焚き付け、在り来りな捨て台詞で消えていく。
「2人きりで話がしたいって…どうかしたのか?」
魔王の城を模した夏芽安吾のジェイル内。
群がるシャドウを一掃した後、コードネームはジョーカーを城影へ呼び出していた。
「フォックスから俺に乗り換える話なら、二つ返事でオーケーだけど…」
どこかソワソワしたジョーカーがコードネームの頭を撫でようとすると、その手は躱され虚空を撫でる。
「どういう思考回路してるの」
「俺は大歓迎」
「フォックスに斬られるよ」
「受けて立つ」
「あのね………そうじゃなくて……」
謎の自信に満ち溢れた顔をするジョーカーを前に、コードネームは一呼吸置いて深呼吸した。 因みにこのやり取りはいつもの事なので、慣れきっているーーと、コードネームは心の中で語る。
「ジョーカー…恐れ多い事を申してもよろしいでしょうか…」
「なんでもどうぞ」
「あのですね……ゆ、ゆゆゆ、」
「ゆ?」
……、
「勇者を!私に譲ってくれないかな!?!?」
「……え?」
「だから、その…勇者を譲って欲しいっていうか、」
「いいよ、ていうか寧ろ勇者になってくれ」
「えっいいの!!!」
「俺はどっちかと言えば、可憐な女勇者を守る役割がいい。最後は、身を呈して守った勇者に生涯身を捧げ…」
「えっ、え?本当にいいの!? 」
「聞いてないし」
「ぶッ……」
その刹那、物陰からスカルの吹き出した声が響いた。
恥ずかしいからジョーカーだけ呼び出して、こっそり伝えようとしたのに、どうやら聞き耳を建てられてたらしい。 警戒を怠った、とコードネームは我に返り冷や汗を浮かべた。
そんな気も知らず、スカルを筆頭に怪盗団の各々が物陰から飛び出してくる。
「は、はあ!? スカル……み、皆!?」
「お、おま…ッ! そんなに勇者に憧れて……ッ!!」
「な、なな……!いいじゃん!!勇者!!!カッコイイじゃん!!」
「わ、私は分かるぞ! カッコイイよな!勇者!!」
「な、ナビ…ッ 最高の友…! スカルは後で絞める……」
「言っとくけどなっ 先行したのはフォックスだかんな!!」
「仕方がないだろう! 自分の恋人が他所の男と2人きりになりたがるなんて、放っておけるわけがあるか!」
『フォックスは、柄にもなくソワソワしていたが…コードネームのせいだったのか』
「そういえば、このジェイルに来た時1番嬉しそうにしてたわね?」
「くく……勇者て…!! コードネームってば……お茶目……っ!」
「うぐ……っ 」
「もう。皆してコードネームをあまり虐めちゃだめだよ。 よしよし」
「ノワール〜〜〜!」
こっちにおいで、と手招きをするノワールに誘われるがまま歩み寄ると、その手をフォックスが引いたのでコードネームの身体が180度方向を変える。
「慰め役はこの俺だ、来いコードネーム。 よーしよしよし…」
ぽすんとフォックスの胸に顔を埋めたーーーさせられたーーーコードネームは、少しの間頭を撫でられた後に、目を悲しそうにしぼめて、高い位置にある慈愛に満ちた双眼を見つめた。
「………………固い………」
「そこはご愛嬌だ」
「慰めに効くのは…柔らかいもの…あっ でも流石フォックス…手つきが慰めに効く……」
「お前の気持ちのいい所など、全て履修済みだからな」
「オマエらなー…」
細い髪の毛を梳くように愛撫して鼻を鳴らすフォックスに、パンサーは「変態だ……」と小さく身を震わせる。
「俺らは一体何を見せられてんだ? 先行こうぜー、先ー」
「そうね、ここに留まっているのも危険だわ。 フォックス、任せたわよ」
「あいわかった」
「っいやいやいや、待ってクイーン! 私も行くから。 早く探索しよう」
「ふふ、じゃあ勇者様はしんがりを頼まれてくれるかしら?」
「あぬあ!! くく、クイーン…………ぐすっ……」
「あー…」
ふるふると羞恥に震えるコードネームに、パンサーが優しく頭を撫でる、と、フォックスがスっと後ろからコードネームを抱いた。
「俺のだ、やらんぞ」
「独り占めしないでくれる?」
「パンサ〜」
「勝った!」
「くッ…何故だ!」
ぎゅうと抱かれる手に力が込められ、コードネームは苦しそうに声を漏らす。
「癒され隊 隊長、出動! 癒しのパワースポットで充電だ〜っ ぬくぬく…」
「俺も、慰められてるコードネームで充電中」
「男が手を出す事はこの癒され隊長が許さんぞっ ジョーカー!」
「ああ! 安心しろ、俺は今、2人を囲む壁だ」
「偉いぞジョーカー」
「聖域だからな」
「なんの話?」
ふんふんと謎の頷きを繰り返すナビとジョーカーは、首を傾げるコードネームに「気にするな、こっちの話だ」と優しい微笑みを向けた。
そろそろ行こう、と満足気にクイーンが足を進めると、隣にいたモナがチャキリとサーベルを抜く。
開けていた道に、1匹のシャドウがジリジリと此方を睨んでいた。
「っ見ろ!オマエら!シャドウが来たぞ! 強そうなやつだ!」
ジェイルに散らばる雑魚シャドウとは別格らしい。
強そうなオーラを纏い、きりりとした声を投げかけてきた。
「勇者め! ここから先は通さんぞ!」
「あっ」
「あー」
「おー…」
じいとこちらを見つめる18の瞳に、コードネームは臆することなく、待ってました!と言わんばかりに身を翻した。 愛しい温もりが手元から離れてしまったフォックスは、情けない声を出して地面に片膝を着く。そんなことは気にせず、コードネームは大胆にシャドウの前で仁王立ちした。
「ふはははは! 私がこの城を落城すべくやって来た勇者だ! 家来だか衛兵だか知らないが、ここで朽ちて貰う! そして勇者の侵攻は、城が落ちるまで止まることは無いッ! 」
さっきまで恥じらってばかりの少女とは思えない程の威勢に、怪盗団面々は(一部を除いて)笑いを堪える為に視線を地面へ落とす。 仮面があってよかった、コードネームの勇者ポーズを直視しなくて済む、と各々が安堵した。
「さあ! かかって来いッ! 秒で再起不能にしてやろう!」
持ち武器を地面に振り下ろし、地面を蹴り、おどろおどろしく姿を変えるシャドウへ飛びかかる。 ペルソナを発動させ、仲間全体に攻撃力上昇のバフを入れると、後方をちらりと見て、コードネームは左手を天に突き上げて見せた。
「行くぞッ」
「やってやる!」
「蹴散らしてやるぜ!」
「行くよ、ヨハンナ!」
「背中は任せておけ」
溢れるように湧き出すシャドウへ、勇者の号令の元各自駆け出していった。
……、
「……てかさ。どっちかっつーと、魔王っぽくね?」
スカルの呟きに、『魔王も! カッコイイから! スキーッッ!』と鎖鎌をぶんぶんと振り回しながら、コードネームは叫ぶのであった。