行かせたくない
※本編○年後 同棲中設定





「ねえねえ蓮、こっちとこっちだったらどっちのがいいと思う?」
「…どっちも可愛いけど、こっちの方が俺は好き。………でも今日はこれ着ていって」
「や、やだよ…」

ぎゅうと渡された服を見れば、数ヶ月前にネットで購入したワンピース。「安すぎる…!」と即購入して痛い目を見たカーキ色のワンピース。
なんでこれ?と夢乃が猫毛の黒髪を見下ろすと、彼はスンと肩を落として眉を下げた。

「ああ…このワンピースも夢乃を可愛くしてしまう………」
「まったく君は何を言ってるの」
「ねえ、本当に行くの?」
「いくよ?半年前からの約束だし…」
「………」

10数年ぶりに旧友達との会合…いわば同窓会である。 初恋の男もいる、あわよくばいい出会いがあればと望んで参加する男もいる、片思いされていたかもしれない男もいる…。ぶつぶつボヤきながらああ不安だと嘆く蓮の頭を軽く撫でて、夢乃はため息混じりに姿見へ視線を戻した。

「君みたいな物好きそうそう居ないから大丈夫だよ…」

思い返せば、少なくとも薔薇色の青春など微塵も無かった学生生活だったなあと夢乃は眉を顰める。 好きになった人には恋人が居たし、告白されたと思ったら女癖の悪い事で有名な先輩だったし。

「…思い出したら悲しくなってきたな…」
「夢乃から違う男のにおいがする。今クソみたいな男の事考えてたでしょ」
「その動物みたいな特技なに…」
「夢乃のことならなんでも分かる超能力」
「そんなばかな」

わかるよ、と抱きしめられて夢乃はぽすりと蓮の膝の間に収められてしまった。

「じゃあ私が今考えてること当ててみてよ」
「んー………」
「どう?」
「ん、」

ちゅ、と唇が触れるだけのキスをして、暖かな手のひらが夢乃の頬を撫でる。 ふにふにとその柔らかな感触をたのしむ蓮と正反対に、夢乃は驚きにぱちぱちと瞬きを繰り返す。

「こ、こわ…!」
「当たり?すごいな俺」
「………」
「ごめん。俺がしたかったからしちゃった」

でも以心伝心だね。なんて言いながら蓮は夢乃の手を引くと、今度はしっかり感触を確かめるように唇を重ねた。

「れ、ん………っ…」

解放の意を込めて胸を押し返しもがくも、日に日に大きさを増す(ように感じる…)蓮の身体にはまったく響かず、夢乃の


「可愛いから…夢乃が可愛いから心配だ…」
「蓮は本当に心配症だよねー… 皆SNSで私に恋人いるの知ってるんだし変なことは何も起きないってば」
「…せめて送迎する」
「君も予定あるでしょ? 」
「遅刻してく」
「も〜」

話が進まない!と卓上の時計をちらりと見た夢乃はその肩を跳ねさせる。 予定ではもうとっくに身支度を終わらせているはずの時刻を指す針が無常に音を鳴らしていた。

「い、急がなきゃ電車乗り遅れる…!」
「夢乃」

心做しか自信満々な笑みを浮かべて立ち上がる蓮へ振り返り、夢乃はじろりと視線を這わす。

「な、なに…」
「送っていくよ」
「………」

クルクルと車のキーを弄ぶ黒髪の彼に、夢乃は頭の中にあった電車の時刻表をくしゃくしゃと丸めた。

「………君、これを狙ってたでしょ」
「さあ…」

ちゅ、と背をかがめて唇を重ねる蓮に夢乃はもうどうにでもなれと彼の手を握った。






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