ラブコメ

「最近、気になる人がいるんだが」
「「えっっ!?」」
「…なんだ。 そんなに驚くことか?」

目を丸くして勢いよく立ち上がった杏と竜司を交互に見て、祐介は片眉を上げる。
一方の真は机のノートに向き合いながら、目だけを彼に向けて「続きを」と震える声で促した。


「笑顔を見ると何故か心が満ち溢れたり、悲しそうな顔を見ると何故か落ち着かない気持ちになる。 彼女の為なら何でも出来そうな気がする。 ……と蓮に話をしたら、それは恋だと言われた」
「うん。 だって恋じゃない?」

そうでしょ?と珈琲を淹れながら蓮が首を傾げると、杏は「恋じゃん!!」と目を輝かせ、竜司はあんぐりと口を開け、真は綻ぶ口元を手で押えた。

「ウッソ!祐介、マジなの!?」
「ああ、俺は至って真剣だ」
「祐介に限って恋愛なんて、そりゃねェと思ってたのに!裏切りモノ!!」
「そ、そそそその女性は、祐介の同級生なの!?」
「真は慌てすぎだから」

杏がわたわたと、何故か慌てる真を宥めながら続きを促す。その瞳はキラキラと楽しそうに輝いていた。

「洸星の上級生だ。委員会が一緒でな」
「へえー。じゃあ出会いは委員会で?」
「いや違う。 入学早々クラスに馴染み損ねた俺に声をかけてくれたんだ。同じ美術部だから気に掛けてくれたのだろうが…俺はそれが嬉しかったんだ」
「わ、私…祐介のそんな顔初めて見たわ…」
「チクショー! 青春しやがってっ!!」
「最近は昼食も共にしている。 ふふ、他人の食事風景に心を惹かれたのは彼女が初めてだ」

怪盗団の中でも1番恋愛から遠いと思っていた祐介の恋愛事情に、各々ははしゃいで話の続きを急かす。 が、リーダーの雨宮蓮だけは目を丸くして困った表情を浮かべていた。

「あー…あの話の男の子って、祐介の事だったんだ」

がしがしとバツが悪そうに蓮が頭をかいて呟く。その言葉に耳と眉をピクリと揺らして、祐介は彼の瞳を見つめた。

「どういう事だ?」
「俺、その子の事知ってるよ」
「「マジ!?」」
「本当か? 本当にそれは彼女か?」
「うん。 夢乃でしょ?」

名前を…しかも呼び捨てだとと案の定祐介が吠えると、蓮はイタズラな笑みを浮かべた。

「可愛いよね、夢乃」

軽い悲鳴があがり、悲鳴の主である真は「しゅらばッ」と言い残してノートへ顔を伏せる。 沸き立つファミレスの4番テーブル、両者とも好戦的な瞳をぶつけ合いながらフリードリンクの水を喉に通す。

「洸星の上級生なんて接点がないだろう、何故…」
「まあ色々あって…。空いてる時間にちょくちょく相談乗ってる」
「は…」
「ごめんな、祐介」
「…もしかして、いや何故今まで気が付かなかったんだ…。 よく贈り物をくれる黒髪眼鏡くせっ毛の秀尽生徒とはお前の事だったのか」
「うん」
「いや特徴聞いてピンと来んだろ!?」
「恋は盲目…」

思わず椅子から立ち上がった竜司を杏がふむふむと頷きながら宥める。

夢乃、ピンクゴールドのブレスレットしてるでしょ?あれ、俺があげたやつ。と蓮が言い放つと、祐介は勢いよく立ち上がり「彼女のペンは見たか?あれは俺と揃いのものだ。放課後に一緒に選んだ」と蓮を見下ろした。

「あー、やばい、羨ましい…。同じ高校はずるだろ…」
「俺はお前の財力が羨ましい…」

お互いにまた1口グラスの水を喉に通す。 そういえばやたら異性との交流はあるのに、彼の浮ついた話は聞いたこと無かったなあと杏は蓮を眺めた。 ああなるほど、その洸星の夢乃という子が本命だったのかと納得し、氷の殆ど溶けたアイスティーを飲み干す。 まさか怪盗団の中でこんなラブコメが見れるとは思ってもいなかった彼女は、火花を散らす男2人をスパイスに運ばれて来ていたオムライスを食べ進めた。

「残念だが、蓮…夢乃の事は諦めてくれ。彼女は俺が口説く」
「ダメ。 もう俺がアタックしてるから後出し禁止」
「知るかそんな事。 関係を持っている訳では無いのだろう」
「これから持つし」
「それは俺も同じだが」

ヒートアップしそうな2人を横目に、竜司はのびのびと背もたれに体を預ける。

「あーあ、俺知らね。つか、これじゃ勉強になんねぇじゃん? カラオケ行かね?」
「…ダメよ、来週テストでしょ? 貴方が1番危機的状況なんだから」
「とかいいつつ真もノート進んでねーじゃん! 」
「わ、私は別に…! 今から真面目に進めるから大丈夫よ!ほらっ杏も! そろそろ集中して!」
「えー! 今めっちゃいいトコじゃん〜」

お昼時をすぎたファミレスの一角。 結局怪盗団面々の勉強は捗るはずもなく、後日何故か成績優秀を叩き出した蓮といつも通り学年上位を取った祐介に、赤点ギリギリだった竜司と杏が文句を垂れる結果となった。


PREVTOPNEXT



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -