運転だけなら上手い方
P5S道中 キャンピングカー内にて
フラグは立ってるものの恋人未満な祐介と蓮がいます




…。


「やっぱり運転、代わろうか?」
「えっ? あ、あー…、大丈夫よ!全然!」

キャンピングカーの運転席に座って、シートベルトをしめる真に声をかけると、返ってきたのはぎこちない笑みだった。 不思議そうに夢乃が首を傾げると、祐介が口を開く。

「夢乃は大人しく隣に座っていてくれ」
「なんでよ。 真1人じゃ大変でしょ、春は仕方ないとしても、私は普段から運転してるし大丈夫だよ」
「大丈夫では無い」
「心外な…」

ぶすっとした顔で裕介を見れば、彼は困り眉で目を閉じた。 「私だって運転できるし」と夢乃が立ち上がるが、その腰は数秒で椅子に戻る。

「………」

椅子の上に、白く骨ばった指で己の手が縫い付けられていたからである。
机の下でがっちりと握られた祐介の手を引き剥がそうと夢乃は意識を集中させた。が、それは逆効果で、皆に隠れて手を繋いでいるだなんて、何だか無性に恥ずかしくなる。
横を見れば、涼しい顔でこちらを見つめる祐介がいるものだから、夢乃は強めに足を踏みつけてやった。

「ぐッ…!」
「ねえ真…、長時間運転は心も体もキツいでしょ? せめて次のSAまで運転変わらせて」
「ほ、本当に大丈夫よ! 運転するの好きだし…!」
「んだよー、夢乃パイセンもそう言ってんだし、運転代わってもらえば良くね?」
「竜司…」

ダメなの?と頭の上で手を組む竜司を、祐介はじろりと見つめる。

「あ、もしかして夢乃、運転下手なの?」

続いて杏が声を上げると、夢乃がじろりと彼女を見つめた。 図星!?と何故か嬉しそうな杏は、足をさする祐介へ向き直る。

「夢乃の車いつも乗ってんでしょ? どうなの?夢乃は運転下手なの?」
「彼女の名誉のためにも証言するが、運転は上手い」
「えっへん」
「じゃあ問題ないだろー、ホラホラおイナリも夢乃離れしろっ チェンジだチェンジ」
「だが、目的地に着くまでに倍の時間が掛かる」
「…どゆこと?」

竜司が首を傾げると、夢乃がうーんと唸った。

「倍は無いよ」
「いや倍だ。酷い時はその倍掛かる」
「あれは…高速途中で降りれなくて…」
「……えっ どゆこと??」

再び竜司が首を傾げると、運転席の真が小さくため息をつく。

「夢乃、かなりの方向音痴なのよ。ナビをつけても何故かよく分からない所に進んでっちゃって…」
「ああ。 この間は曲がる場所をひとつ間違えただけで謎のトンネルに侵入し、一本道をひたすら走ることになったな」
「そ、それは! ちょっと間違えちゃっただけで…」

ごにょごにょと上擦った声を上げる夢乃に、助手席で地図アプリを眺めていた蓮がゆっくりと振り返った。

「まあ、今回はソフィアも居るから曲がる所さえ気をつければ大丈夫じゃないか?」
『まかせてくれ!』
「な?」

やる気満々のソフィアが映る携帯画面を顔横に掲げて、祐介と双葉から「好感度を稼ぐな」とでも言いたげな視線を受けながらも蓮は夢乃へ微笑むと、当の夢乃は嬉しそうな笑顔をうかべた。

「リーダーがそう言ってるんだから、ほらほら真チェンジチェンジ」
「え、ええ…? 本当に大丈夫?」
「うん!ねっ ソフィア?」
『私がしっかりナビを務めるぞ。安心してくれ!』
「ううん…もう。わかったわ、ありがとう夢乃」
「やった!」

「本当に大丈夫なんだろうな…」
「大袈裟だって! 優秀なナビも付いてるんだから流石の夢乃だって迷ったりしないでしょっ」

心配そうな祐介を杏がバシバシと叩きながら激励すると、竜司から配られたトランプで扇を作り苦い声を漏らした。

「げ、ブタ…」
「真も大富豪しよーぜ! ほらトランプ!」
「マコちゃんにも負けないからね」
「春ってばマジでつえーんだぜ」




…。


『な、何故だ…どんどん最短経路が変わっている…?』
「はははっ、夢乃の方向音痴が勝ったな」
「だ、大丈夫! ここ真っ直ぐ行けばそのうちUターンできる所に…」
『いやまずいぞ。 ここから先ずっと一本道だ!』
「ええっ! ちょっとどうにかして!?蓮も聞いてる!?」
「あはははっ 」

騒がしくなる運転席に、大富豪を何試合が終えた後部座席で祐介が案の定だなとため息を漏らした。大富豪を勝ち取り続けて意気揚々の春とは反対に、貧民続きの竜司は背を丸めながらスマホでマップを開く。 そして次の目的地から一直線に遠ざかっていく青いGPSマークをぼうと眺めてから目を丸くした。

「マジで倍時間かかんじゃねえの!?」
「だから言っただろう」
「いや信じらんねえだろそんなの!つかAIでもサポートできないほど方向音痴ってどんなだよ!」
「やっぱり夢乃に車はとことん相性が悪いのね…」
「にしても楽しそうだなーあのリーダーは」

双葉がパソコン地図を見ながらボヤくと、蓮がひょっこり振り返って小さくピースサインを見せつけた。

「運転中の夢乃」
「は」
「いい眺め」

超絶可愛い、と勝ち誇ったような顔で颯爽と助手席へ座り直す蓮に、祐介ほぽかんと口を開けて手に持ったカードを机に落とす。

「あ、祐介8切りじゃん」
「くそ…! 俺は8など切っている場合ではない…!」
「抜け目ないねえ、うちのリーダーは」

杏がにやにやとスマホのカメラをフロントシートへ向けてシャッターを切ると、「その写真ちょうだい」と蓮が嬉しそうな声を投げた。




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