耐えられない
「やだやだやだ。 夢乃と一緒にいたい」
「わ!ちょっと…」
「どうしても? 俺ダメになっちゃうよ?」
「仕方ないでしょ?大学行事なんだもん」
「俺もいく」

ぎゅうと後ろから抱きしめて、蓮は夢乃のうなじに顔を埋めた。 彼女は明後日、大学の行事で旅行へ行ってしまうのである。 事ある事に同い年でないことを蓮は悔やんでいたが、今回ばかりは別格だ。 なにせ海外旅行だ、それもイタリア。

「5日後にはお土産持って帰ってくるから…」
「5日も待てない」
「もう」
「俺もいく…」
「毎日電話もするから、ね? 写真送るし」
「声だけじゃ足りない…」
「ああもう…」

一向に緩まる気のない蓮の腕に、夢乃は困った顔で笑いを漏らした。 困り顔すら愛おしくて、ひょっこりと彼女の肩口から顔を覗かせてじっと見つめる。 線の細い睫毛が揺れて、恥ずかしそうなブラウンの瞳を優しく覆った。 彼女が魅せる色々な顔は、勿体ないのでひとつたりとも見逃したくないと雨宮蓮は自信を持って豪語している。

「ふふ…君、ジョーカーの時はクールなのにね」
「こんな俺は嫌?」
「ううん、ギャップが可愛いと思う」
「可愛いのは夢乃の方でしょ」
「はいはい」

まるで子供をあやすかのように頭を撫でる夢乃に、蓮はむっと口を尖らせる。 かぷりとうなじに噛み付くと、その痛みに夢乃の小さな悲鳴が上がった。 白い肌に浮かぶ歯型をぺろりと舐めて、蓮は再びうなじに顔を埋めてもごもごと言葉を零す。

「イタリアでは、日本人の女性はモテるってネットで見た。 イタリアってナンパが多いんだろ?」
「あはは、それどこ調べ? ナンパが多いって話はたまに聞くけど…」
「華奢で小柄でニコニコしてる女の人は、かわいくてモテるんだって。もうそれ、夢乃じゃん」
「そんな事ないよ。 …どちらかと言えば杏ちゃんみたいなスタイルいい子の方がイタリア人も好きだと思うけど」
「…夢乃はもっと自己理解を深めた方がいい」
「君は私を買い被りすぎだよ」
「謙遜する所も好きだけどさ」
「ああ、ちょっと、噛みすぎ…」

あぐあぐと首根を甘噛みする蓮に、夢乃はぺちぺちと彼の腕をたたいて静止を促した。
彼の噛み癖には大分慣れた夢乃だが、流石に首筋をそう多く噛まれては困る、と手で首を覆う。 隠す方の身てにもなって欲しい。 冬場と違って、夏場に首を隠すのは些か不自然だ。

「んん、もう…」

…そして、もうひとつ弊害が生じている。 蓮の吐息や口腔の温かさを肌に感じて、夢乃はじわじわと身体の芯が火照るのを感じていた。 すっかりと感度の良くなってしまっている首筋は、指の隙間からほんのりと赤く染まり、夢乃は上気した頬を見られまいと顔を伏せる。
その仕草に蓮はごくりと唾を飲み、覆った白い指に噛み付いた。

「いっ…」
「夢乃、顔みせて」
「ダメ…ていうか、指はじめて噛まれた…」
「俺、夢乃の身体ならどこでも噛むよ」
「その台詞、変態っぽい…」

食むのを許されたと受け取った蓮は、夢乃の白い指に歯を立てる。 ちゅっちゅと吸い付いて華奢な指に舌を絡めると、ピクリと夢乃が身体を震わせた。

「蓮…っ 変な舐め方しないで…」
「夢乃、ひゃわいい…」

舌の絡み合いを連想させる動きに、口から漏れる淫らな水音に、夢乃は思わず顔を上げて蓮を見る。 涎がてらてらと光るのも気にかけず、欲のままに指へ吸い付く蓮がどうしようもなく性的で、ふわふわのくせっ毛に優しくキスをした。
ぶわりと蓮の香りが鼻腔に広がり、くらくらと身体の芯が痺れる。 はあ、と身震いしながら夢乃は己が行動を悔いる、銭湯上がりの蓮の香りは余計に心に悪いのを忘れていた。

「ん…?夢乃?」
「うう…蓮のせいで、自分が変態みたいだ…」
「俺のせい?」
「…お風呂上がりの君、すごくいい匂いするから」
「じゃあもっと俺の匂い吸って、俺の香りでいっぱいになって」

ぐるりと夢乃の視点が反転する。 優しく覆いかぶさって、蓮は夢乃の胸に顔を埋めて抱きしめた。 甘い石鹸の香りを胸いっぱいに吸い込んで、すりすりと黒い癖毛を揺らす。 香りで相手の性的に刺激するフェロモン香水なるものが存在するらしいが、蓮にとって夢乃の香りは、常にそういった物と同類の効果を発揮した。
香りも相まって、夢乃の色香にあてられた蓮は、夢乃の手を嫌なほど主張する下腹部へ誘導する。

「俺も、夢乃の匂いでこうなっちゃう」
「あ、うそ…」
「ん、夢乃すき…」
「うう、もうダメだってば…」
「かわいい…」
「い、いいからっ…そういうの言わなくて…」
「やだ。俺の気持ち全部知ってて欲しい」

ちゅ、と唇を重ね合わせられ、舌が絡み合う。 やられっぱなしは嫌だ、と夢乃の手が優しく蓮のソレをズボン越しに撫でると、短い吐息が漏れた。 余裕の無さそうな表情を浮かべる蓮に、思わず夢乃はぎゅうと強めに圧迫する。 か弱く漏れる嬌声に調子付き、ズボンのファスナーを降ろそうとした所で、がぶりと首筋を噛み付かれた。

「んあっ…ッ…」
「………ふっ…今軽くイッたでしょ」
「そ、んなことないっ」
「かわいい。嘘かどうかは触ればわかるけど」
「まって、だめっ…」
「今日は抱き潰すから、覚悟して」

5日分だからな、と蓮はギラギラ光る欲を孕んだ瞳で見下ろすと、夢乃は背に腕を回して自身に引き寄せた。


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