Tu es la source de mon bonheur.




「いやいやいや、だからさ…」







ふるふると顔を横に振り、否定の色を表すも効果なし。


だからだから…!!
こうも何故付きまとうのか、シンの王子様よ…!
少しはこちらの意見も尊重して欲しいところだ、と何を言っても無駄な様子。

お構いなしに彼───リンはこちらに近づき顔を覗き込んだ。


「心配しないデ?ちゃんとエスコートするシ!」
「そういう問題ではなくてだね!!」
「どういう問題だイ?」
「根本的に交際なんてものは無いから、結婚もないから!」
「だから付き合おウ!」
「だから…!」


何度目の言葉だろう、と呆れ半分疲れ半分のため息が出る。 相変わらずの笑顔を貼り付けたリンは分かっているのか分かっていないのかどことなく楽しそうだ。


事の成り行きは単純で。
エドとアルの手合わせの間、時間も空いているので傍の飲食店で愛用の小型ナイフの手入れをしようとした所。
どこから嗅ぎつけたのかものの数秒で登場を果たした皇子・リンは当たり前のように同じ席に座ったのだ。しかも隣に。四人席のテーブル、両サイドに2人がけの椅子なのに。隣に。

リンの言葉に押されていたが、よくよく考えてみればおかしな話である。



「…うん、おかしいよね。なんでこっちに座った?まずは向かいの席に座ってもらおうか」
「えェ…だってそうしたらなまえ、逃げるだロ?」
「いや、いやいやいやいや…そのためだけなら何もこんなくっつかなくても…」
「それは俺が落ち着くかラ!」
「私は全くおちつかないけど!?」
「慣れれば落ち着くヨー」
「何に!?」


さも、無害そうな笑顔で笑うリンだが、私は知っている。
彼はお馬鹿そうな、何も考えてなさそうな素敵な笑顔の裏にとんでもない狼を飼っていることを。

スリスリと髪の毛に顔をうずめるリンに、段々と何もかもがどうでもよくなってくる。
ぼけーっとしながら思い浮かべるのはちっこい金髪の生意気そうな顔と鎧の心優しい少年。



「あぁ…はやくエド達戻ってこないかな…」
「うン?ここで待ち合わセ?」
「まぁ、そんなところかな」
「どこかに出かけるのカ?」
「この辺で買い物かな。今日はゆっくり休暇だっていうから…2人とも体鍛えに外出てるけど」


時間はまだ余裕の午前。 午後からエドとアルと3人で買い物に出かける予定である。、
隣で聞いていたリンは、顔は見えないものの不機嫌そうに一層顔をうずめた。 うー、と悲しそうな声を出してグリグリ肩口へ頭を押し付ける。
因みにこの技は、なにか絶対に譲れない物がある時や頼みごとの時にリンが使う技だ。

「………」

あえて気づかない振りをしてナイフの手入れに戻るとリンの動きが止まる。 と、同時にこちらの身動きが取れなくなった…正確には、完全に彼の腕の中に捕獲されてしまった、というのが正しい。


「俺、なまえをデートに誘いに来たんだけどナ」
「………あの、身動きが」
「最近なまえと会えてないかラ。大急ぎで駆けつけたんだけどナ…」
「………………」
「ネ?なまえ?」
「………午後の買い物一緒に行く?」
「2人きりがいイ」
「そうか…なら、もっと可愛げのある暇そうな女の子に申し込んだらどうかな…?」
「……なまえ」

痛い、痛い痛い。
まぁ少し意地の悪いことを言ったけれども。
巻きついた逞しい腕を解くのは無駄でしかない事を十分承知なので、痛みに眉を歪ませながらリンの頭をそっとなでる。

「…わかったわかった。お誘いアリガトウ、夜なら空いてるけどそれでいいなら──」
「いいヨ!」

刹那、パッと明るくなったリンの顔に思わず笑みがこぼれる。というか、コイツ絶対に断らせる気無かっただろうな。仕返しのつもりで頬をつねろうと手を伸ばすと、簡単に捕まえられてしまい、ぎゅうと大きな掌の中に閉じ込められてしまった。

「何時?何時に待ち合わせすル?それとも買い物の護衛しようカ?いっそのこと抜けがけしちゃウ??」

いつの間に頼んだのか、甘ったるそうなパフェの到着したテーブル席。
満面の笑顔を浮かべるリンに怒号が届くまであと数十分。



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