To annoy. wine



〉調査報告書
某日某時
○番地 BAR《エンゲル》店内



………。
……。







「これ、俺からのプレゼント。美味しいよ」


そう言ってカウンターを滑ってやってきたのは、綺麗な色のカクテルとそれに似合う可愛らしいクッキー。 ニッコリと愛想のいい笑顔とどこか胡散臭いその声に、思わず交渉の席に立つロイが頭によぎった。………いや、そんなこと言ったらおこられちゃうけど。

何よりこのカクテルとクッキー………。"プレゼント"と称された物と男を交互に見比べると、かの男はニコニコとほほ笑みを浮かべていた。 気を悪くさせるのは申し訳ないので、精一杯の笑顔を作って手を振る。

「どうも…。残念だけど独りじゃないの。ごめんね、ほかを当たってくれないかな」
「ええ〜!残念。だけどお相手さんはまだ来ないんでしょ?」
「いや、すぐ来ると思う」

ああ、こんな事ならもっと女っ気ないだらしない格好で来ればよかったなあなんて思いもしたが、改めて自分の格好を見返しても女っ気なさはこの上なかった。 じゃあこの男は何を思って地味な女を口説きにかかっているのだろう…いや逆に地味なほど口説かれ安そうに見られてしまうのだろうか。
ブツブツと数秒考え込んで、「だからごめんね」とカクテルを滑り返すと、数席隣に腰掛けていたイケメン君は自信ありげにそのカクテルをまた滑り返した。

「だめだめ。俺知ってるんだよ君のこと。いつも彼が来る30分前には来てるでしょ?」
「は…?」

ああ、ストーカーの類だったのかと不謹慎に納得してしまう。 事実…仕事の関係上、私の方が上がるのが早いからちょっと先に来てお水を飲んでいる訳だけれど。 なんで知ってるの?だなんて分かりきった質問をするより早くイケメン君は蒸気した頬を緩めた。

「今日だってまだ時間あるでしょ?やだなぁ嘘つくなんて。俺にはわかっちゃうよ?」

にっこりと笑うその瞳には、先程の愛想の良さは全くもって消失し、薄気味悪ささえ感じさせられる。

「その髪飾り、先週もしてたね?お気に入りなの?あぁそれと、そのスキニーは初めて見た。もしかして最近買った?前に駅前のセールで売り出されてるの見たなあ。似合ってるね」

まてまてまて。安売りスキニーまで見抜かれているとは。
毎週顔を出すのだから、顔くらい覚えられててもしょうがないとは思ったが。

やばいやつに関わってしまった。
椅子にかけた羽織をサッと纏い立ち上がる。


「だめだよ。逃がさないよ、なまえちゃん───」

ぱしっと引き留められた手は、細身ながら力が強かった。

…がしかし、こちらは軍所属の錬金術師である。そんな手で捕まえられると思われていたなんて、随分侮られたものだなあと心の中で笑った。
イケメン君の手を逆手で触れ、微力ながら指を擦ると発生した電磁波がピリリと彼の体を蹂躙する。

「ッぅ゛………ッ!!!」

さぞ痺れただろう。少し放心状態になるだろうけど自業自得ってことで勘弁してくれ。 倒れたイケメン君を抱き起こして壁際に連れてくると、男の鞄から紐を取りだしてぐるぐると手足を縛る。 やっぱり彼はこの紐でおいたをする予定だったらしい。 ちらりとカウンターを見るとマスターがぱちぱち手を叩いていた。

「流石お見事」
「ごめんねマスター。ロイが来たらあそこのスーパーに居るって伝えておいてくれない?」
「承りました。…この男性はいかがなさいましょう?」
「軍に連絡して連れてってもらってもいい?あ、私の仕業ってことは伏せてね。…あ、あとこのお菓子とカクテルは捨てずに軍に提出して欲しい、多分重要な証拠になると思うから…」
「仰せのままに」
「騒がせてわるかった。また来るね」


ひらりと手を振るマスターに一礼すると、ヒューヒューと口笛を吹く客の横を通り抜けてBARを後にした。

















…。








「──なまえ!」



丁度スーパーを物色し終え、レジへ向かおうとしていたころ。後ろ手を引かれ振り返ると物凄い形相で息を切らすロイが立っていた。


「──なにも、されてないか!?」
「大丈夫、なにもされてないよ」
「そうか…よかった…」

ほっと胸を撫でおろすロイの安堵の顔に笑みが零れた。
マスターがなんて説明したのかは分からないけれど、あの男が最近噂の「一夜限りの金品泥棒」と呼ばれる悪党だという事は知ったのだろう。
甘いマスクと上手い口に乗せられ、菓子やら飲み物やらに含まれた薬を飲んでしまったが最後。
目覚めると自室の乱れたベットの上、金品金目のものは全て無くなっている有様という、何とも卑劣な悪党だ。


「私が遅いばかりに怖い思いをさせてしまった…すまなかった」

しょんぼりと明らかに肩を落とすロイに思わず笑みがこぼれる。 自信満々に堂々と指示を出す昼間のロイはどこへ行ったのか…いやむしろ、こうして色々な姿を見ることが出来る私は幸せものなのだろう。

「大丈夫。ロイが遅かったおかげで犯人捕まえられたわけだし、私も場慣れしてるからあまり怖くなかったし…」
「しかし…」
「じゃあ、今日はロイからのプレゼントってことで、私の大好きなワインかってよ!流石に今日はもう外で飲む気になれないからね!」

これ!と差し出したのはストロベリーワイン。甘酸っぱさと美麗な香りが特徴で、意外と値の張る上等品である。
受け取ったワインを軽々とニ三本持ち上げてロイは微笑んだ。

「よし、何でも好きな物を買いたまえ!今夜はなまえの言うがままだ、存分に私を使ってくれ!」
「わーい!じゃあストロベリーケーキも買おう、あと今日発売の雑誌とプリンと───」
「待て。カゴが………」








🔥









「あ〜〜〜もう。きいてるの?ねえロイってば〜〜」
「ああ、ちゃんとその可愛い声を聞いているとも」
「てきとうにかえしてるでしょ?にやにやしないでちゃんときいて」
「すまない。なまえがあまりにも可愛くて頬が緩むんだ」
「だめ。甘いことばにだまされちゃだめなんだよ」
「なまえ、私以外の甘い言葉はだめだが、私はいいんだ」
「なんで?」
「なんでもだ。いいか?私は特別。私だけが特別。なまえも特別」
「せんのうやめて」
「なまえ、君はもっと自分の可愛さに気付くべきだ。危機感が足りない」
「はあ」
「だめだ…迂闊に外で一人にさせられないな…酔わせられない…」
「そんなんだからリザにかほごっておこられるんだよ」
「なまえがわるいんだぞ。だいたい君はいつも───」






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