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秋組のみんなが舞台に立てたのを見ただけで、感慨深くて目頭が熱くなった。
感動して、感激して、散々泣いて。よかった、よかったよぉ、と声が出そうなのを何度も抑えて。
全員が、間違いなく今までで一番の演技をして、DEAD/UNDEADは幕を下ろした。

「ううっ……ほんと最高……」

何度目かもわからない独り言を呟きながら、楽屋の方に向かう。
歩いてはいるものの、自分でちゃんと歩いている感覚がない。胸が熱くて、なんだか呆然としてしまって。ふわふわ宙にでも浮いてるみたい。
ぼーっとしながら歩いていたら、楽屋裏に人だかりを見つけた。
強面の集団を見てすぐ、銀泉会の人だろうとわかった。真ん中にいるのが莇くんのお父さんだろう。隣に左京くんがいて、いづみちゃんと話してるのが決定打だけど、そうじゃなくても絶対わかったな。だってわかりやすいもん。
――莇くんのお母さんはずっと前に亡くなったから、忙しいお父さんの代わりに左京くんが莇くんの面倒をみてきたと聞いた。莇くんの反抗的な態度が主に左京くんに向いているのも納得だ。もう一人のお父さんって思われるほど、莇くんのそばにいて、大切にしてきたってことだろうから。
莇くんのお父さんがいるなら、いつまでもふわふわしているわけにはいかない。ちゃんと、私の口から話さないといけないことがある。
ぎゅっと目を瞑って、散漫になっていた意識を集中させる。
……よし。
気合を入れてから、速足でガラの悪い集団へと近付いた。

「あの、莇くんのお父さんですか?」
「ん?アンタは……」
「劇団の支配人の親戚の、みょうじなまえです。今回、莇くんと一緒に連れていかれちゃって……」

そう伝えたら、話には聞いていたのか、「ああ」と莇くんのお父さんが頷いた。これ以上の説明は必要なさそうなのを見て、それなら今すぐ本題に入ろうと、ガバッと頭を下げる。腰が90度に曲がるくらい、深く。本当は土下座でもしたいところだ。

「ごめんなさい!私が一緒にいたのに、莇くんにあんなに怪我をさせちゃって。舞台もあるし、私が助けないといけないのに、むしろ私がずっと莇くんに守られちゃってました…!」

頭を下げ続ける私に、莇くんのお父さんの声が降ってくる。迫力のある、渋い声だ。

「頭を上げな。嬢ちゃんは巻き込まれただけだろう」
「でも…!」

でも、私にはもっと出来ることがあった気がする。それに、私のせいで莇くんが余計なケガをしたのは、きっと事実だ。だって秋組のみんなが来てくれる直前、リーダー格の男が私に近付いてきた時、莇くんが後ろから蹴りを入れたのは、絶対に、私のためだった。標的が自分から私へと移らないように。
それでも……

「でも、もしあの時、逃げるか一緒に連れて行かれるかを選べたとして、私は莇くんと一緒に行くのを選んでました。……私がいることで散々迷惑をかけることになっちゃいましたけど」

だから、やっぱりごめんなさい。そう謝る私に、莇くんのお父さんがどんな顔をしているかは見えない。けど、落ち着いた声は、怒っているようには聞こえなかった。

「守られてたっつったな。嬢ちゃんは、あいつがちゃんと嬢ちゃんのことを守れたと思ってんのか?」

どうしてそんなことを聞かれるのかはわからなかったけど、問いかけられた、迷う必要の一切ない質問に、私は大きく頷いた。まっすぐ、莇くんのお父さんを見つめる。

「はい!完璧に!」
「……守りたかったもんにそう思ってもらえてんなら、あいつも体張った甲斐があったろ」

守りたかったもの、なんて言い方をされて、そんな場合じゃないのにとっさに照れてしまって、ほっぺたをおさえた。

「にしても、男のくせに守ろうと思われちまうたぁ情けねーな」
「えっ」

私の発言のせいで莇くんが誤解されてしまう!?まさか、私が助けなきゃって気持ちがそんな風に解釈されると思わなくて、慌てて莇くんのお父さんに弁解する。

「情けなくないです!莇くん、いつもとってもかっこいいです!すごく、すっごく!」

真剣に主張する私に、莇くんのお父さんはちょっと驚いたように私を見てから、「はっ」と笑った。
鼻で笑われた……!?本気なのに!
ついでに、いづみちゃんも笑ってた。左京くんは心底呆れた顔をしたから、左京くんが一番ひどい。
でも、笑ったと思った莇くんのお父さんがすぐに「あいつにゃまだまだ勿体ねぇ言葉だ」と続けた、その目元が柔らかくて、あれ、と思い直す。もしかして、莇くんのお父さん、嬉しかったのかな……?
考えてみれば、そりゃあそうだ。息子がケガをしたら心配するし、褒められたら嬉しいもんね。……もしかすると、莇くんと同じで、ちょっと素直じゃない性格だったりするのかもしれない。そうだったら似た者親子なのかもって思って笑ったら、「珍しい嬢ちゃんだな」と、褒められてるのかどうか微妙なことを言われた。なんとなくだけど、愉しそうな顔をしてる気がするから、褒め言葉だと思っておこう。

「嬢ちゃん──なまえさんっつったか。 莇はまだまだ生意気な甘っちょれぇガキだが……もし良かったら、あいつのことを見守っててやってくんねぇか」
「はい!もちろんです!」

元気よく返事をしたら、莇くんのお父さんが目を細める。その表情が、時々莇くんが見せる顔と同じで、やっぱり似た者親子だ、って思った。

「総監督さんも、よろしく頼んます」
「はい! なまえちゃん、行こっか」
「うん」

莇くんのお父さんと周りの人にお辞儀をして、槙田くんにはお疲れ様って声をかけて、いづみちゃんと楽屋に向かう。

***

「にしても、いつ以来だろうな。ハナから物怖じせずに俺の目ぇ見てきたやつは。しかもそれが、莇と同年代のお嬢ちゃんときた」
「アイツは、坊とはまた少し違った意味で生意気ですから」
「お前も可愛くて仕方ねぇって顔してるぞ。今度、今回の詫びも込めてうちに呼んでやりな」
「……。誘われたら、尻尾振って飛んできますよ」

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