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「えへへ、嬉しいなあ」
「言っとくけど、俺まだ入団してねーから」
「うんうん」
「……ぜってー聞いてねえ」

呑気に笑う様子に呆れれば、意外にも「聞いてるよー」と返事をされた。けど頬が緩みきったコイツを見ると、やっぱあんまちゃんと理解しているようには思えねえ。

クソ左京に文句を言われたコイツが間髪入れずに堂々と俺の味方を公言したのには驚いた。前々からやたら気にかけてくるっつーか、懐かれてるっつーか、劇団のヤツのなかでは九門と並んで話す機会は多かったけど。無条件で、当然って顔で俺の肩を持ったのには驚きと、若干の呆れみたいな感情と、……ありがたいような気持ちは、あった。
入団オーディションの内容は、一週間で舞台に立って一人芝居をして、一位を取ること。その条件が難しいことくらい俺だってわかってるけど、だからって引き下がるつもりはねえ。
その大変さは俺よりわかってるはずなのに、なんでコイツは既に俺が受かったみたいな顔で浮かれてんのかはわかんねーけど。その影響で、時々九門まで状況を忘れて俺がもう入団したと思い込む時がある。紛らわしいしうるせーけど、応援してくれんのはありがたい、と思う。

「おい、そこで何してる」
「びゃ」

猫みたいに首根っこを左京に掴まれたアイツが恨めし気に左京を見る。

「ちょっと気になっただけだもん」
「コソコソすんな。練習の邪魔だ」
「左京くんの集中力が足りないんじゃないの」
「んだと?」
「ふーんだ!」

そのまま言い合いになる二人を見て、「仲悪ぃな」と呟いたら、「あれはあれで仲良しなんスよ」と太一さんが笑った。いや、仲良しとは言えねーだろ。

「最初は本当に仲悪かったからな。正確に言うと、なまえが素直にならなかっただけだけど」
「?」

万里さんを見たら、何かを思い出したみたいに苦笑いをした。

「最初は、なまえからしたら左京さんは自分が住んでるところを滅茶苦茶にしようとする借金取りだったからな」

劇団に借金があるといっても、家のローン程度にしか思っていなかったアイツは、監督が来て、春組が発足して、借金が一千万あるって聞いて度肝を抜いたらしい。元々そんな認識だったから、借金の催促に来る左京に喧嘩を売ることも度々あったと聞いて、ヤクザ相手に喧嘩売んなよと思った。
その借金取りが秋組の劇団員になってからも、心の整理が出来なかったからか、決して名前は呼ばずに「ヤクザ」と呼び続けて、やっぱりいつも喧嘩越しだったらしい。

「ヤクザヤクザーって言いながら、よくちょっかいを出しにいってたな」
「構ってほしい子どもみたいで可愛かったッス」

臣さんと太一さんの言葉に、十座さんが頷く。「至さんは一種のツンデレっつってたけど」っていう万里さんの言葉にはいまいち頷けなかった。

「いつからかはわからねぇが、公演が終わる頃には、左京さんのことを名前で呼ぶようになってた」
「そうだったな」

懐かしそうに笑った臣さんが、未だに言い合いをしている二人を見る。
野球をした時とか、左京に向かってずけずけと遠慮ないことを言うヤツだと面白く思ってたけど、あの態度にはそんな経緯があったのか。
確かに俺も、「左京くん左京くん」って用事もないのにアイツが突っかかりに行くのをみたことがある。

「左京くんのばーかばーか」
「はっ、それしか語彙がねぇのかお前は」
「うわーん!臣くん!左京くんが私のことバカにしたー!」
「はいはい、二人ともその辺にしておこうな」

名前を呼ばれた臣さんが慣れた様子で二人の方に歩いていく。その後ろ姿を見送っていたら、万里さんが俺の隣に立った。

「最近は、なまえは莇のことを気にしてこの辺ちょろちょろしてるみてーだけど。 莇のこと、応援してんだろ」
「別に、気にされたところで俺がやることは変わんねーし……」
「それはそうだな」

ポートレイトをしっかりやる以外ねぇ。そのことは万里さんも俺もわかってるし、アイツ……なまえだってわかってるだろう。

夜、ポートレイトの準備をしてた時、臣さんは差し入れにってスコーンをくれた。万里さんは時々アドバイスをくれる。劇団のほかのヤツらも、気にかけてくれてるって感じでちょくちょく話しかけられる。
万里さんのは大分気楽に聞けるけど、ほかのはなんだか居心地が悪くて、どう対応したらいいのかいまいちわかんねー。
それはなまえも同じだけど、ほかの時とはちょっと違って感じるのは、いつもいっぱいっぱいって感じの余裕のない必死さで応援されるから、見てるこっちに余裕が生まれるせいだろうか。
いつだったか、話の流れで監督が「なまえちゃんは素直な子だよね」と言っていた。それは短い付き合いでも、俺もわかる。素直だから、アイツの言葉はそのまま受け取りやすいのかもしれねぇ。

左京から離れてこっちに来たなまえと目が合った。

「あ、あの、莇くん!これからまだ練習、だよね」
「ああ」
「私、応援してるね……!」

何故か真っ赤な顔でそれだけ言って、アイツは脱兎のごとく駆けていった。……なんだ、あれ。
言い逃げみたいな、こういうことは結構頻繁に起きる。正直なんなのか、よくわかんねー。

「うっ、うっ……俺っちだっていつか……」

あと、こういう時太一さんがいつもズルいだのなんだのと言って周りのヤツに泣きつくのもちょっと謎。

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