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「秋組の新メンバーかあ」
「新入団員は、あのメンバーの中に入っても違和感のない外見で、怖気づかない度胸がないと、だね」

いづみちゃんの言葉に頷きながら、今の五人の姿を思い浮かべる。あそこに入れる人ってなかなかいない。精神的にも肉体的にも色々求められすぎる。

「熊とか?」
「ハッ……!」
「違和感仕事しろ」

冗談を言う春組の大人二人に「それ、人間じゃないっす……!」とつづるんのツッコミが入った。咄嗟に「それだ!」と思ってしまったのは仕方がない。だって秋組だもん。

「あー、そのことなんだけど……」
「?」

莇くんが躊躇いがちに声を出す。新入団員について、なにか心当たりでもあるのかな?もしそうなら、とってもありがたい。
莇くんがなにかを言いよどんでいたら、バンッと勢いよく談話室のドアが開いた。莇くんの名前を叫びながら転がり込むように部屋に入ってきたのは、迫田くんだ。どうしたんだろう、あんなに慌てて。

「大変だ!会長がとうとうしびれきらせちまって、会のモン引き連れて、お前を連れ戻しに来るって!」
「え!?」

それって、莇くんが帰っちゃうってこと!?

「カチコミってやつか。本当にあるんだな」
「似たようなことなら、俺はわりと身近でよく見るけど」
「莇くん……帰っちゃう……? あ、莇くん……帰っ、ちゃう……」

MANKAI寮から莇くんがいなくなっちゃうの?
朝一で会えたら幸せだと舞い上がったり、座ってる姿を見て横顔きれいだなって見惚れたり、すれ違う時に挨拶してくれて内心大喜びしたり……それに一緒に学校も、行けなくなっちゃうの……?

「二人とも、のんびりしてる場合じゃないっすよ!なまえちゃんもショックで固まっちゃってるし! どうすんだよ、莇!」

九門くんが慌てて、左京くんもやってきて……そう認識はしているものの、呆然としたままの私は、みんなの声が耳に入ったそばから通り抜けていく。それでも、莇くんの声だけははっきりしっかり聞いているんだから、現金な耳だ。

「つーか俺、秋組入るし」
「は?」
「え?」

……え?
えええっ!?
咄嗟に莇くんの言葉の意味が呑みこめず、一拍遅れて顔を上げたら、呆気に取られているいづみちゃんと左京くんが目に入った。いや、驚いているのは二人どころか、部屋にいる全員だ。

「マジで!?莇、秋組入るの!?やったー!!」
「ほんと!?嬉しい、嬉しい!!」

九門くんに続いて私も一緒になって喜んで、二人で立ち上がってハイタッチをした。莇くんには引いた顔をされた。
けれど、それに黙っていないのは左京くんで。

「ふざけんな。本気でもねぇくせに。いい加減、劇団を逃げ場に使うのはやめろ」
「俺が本気じゃねぇって勝手に決めつけんな」
「そーだそーだ!」

外野から野次を飛ばしたら、ギンッと左京くんに睨まれた。こういう顔で左京くんに睨まれるのは久し振りだ。

「……おいみょうじ、てめぇ誰の味方だ」
「莇くんに決まってるじゃん」
「ああ?てめぇは劇団のこと考えてねえのか」
「私は莇くんに入ってほしいんですー!」

威張るように言い返せば、「なまえちゃん勇気あるー」と控えめな音量で九門くんの声が聞こえた。
私は莇くんの味方だからと胸を張って宣言すれば、左京くんはそれは不機嫌そうにチッと大きく舌打ちをする。ふーんだ、そんな態度取られたって左京くんなんて全然怖くないもんねーっ!

左京くんは不機嫌さを隠さないまま鋭い視線を莇くんへと戻す。二人は険悪なまま言い合いを続け、「てめぇの入団は認めねぇ」と言い放った左京くんに、遂に莇くんが殴りかかった。

「おらぁ!」

うわあ、すご……。
そのまま殴り合いの喧嘩へと発展した二人のものすごい勢いに、誰も手出しはせずに、というか出来ずに、ただ見守る。

「二人とも、なかなかいい動きするな」
「これなんて格ゲー。コントローラーどこ」
「アニキ、やっぱケンカつえぇなー……」
「はわ……莇くん、かっこいい……」

今蹴った、脚すごい上がる。なにあれ、かっこいい。
ひゃあひゃあ言いながら莇くんに見惚れる私につづるんが何かを言った気がしたけど、夢中になっててよく聞こえなかった。

「まあまあ、二人とも落ち着いて。いつまでケンカしてるんすか」

いつもの穏やかな口調で平然と二人の間に割って入ったのは臣くんで、それによって莇くんと左京くんの喧嘩は強制終了となった。

「なんでちょっと残念そうなんだよ」
「えー?」

呆れ顔のつづるんに「だってかっこよかったから」と唇を尖らせれば、溜息を吐かれる。
ああ、録画とかしておけばよかった……。すごいかっこよかったな……。

結局、九門くんの提案と、タイミングよく登場した雄三さんの紹介により、莇くんは入団オーディションを受けることになった。
つまり、受かれば莇くんは見事秋組の一員というわけだ。

「やったー!莇くんがMANKAIカンパニーに入る!」
「いや、だからテストに受からなきゃダメだって言ってるだろ」
「わーい!」
「聞いてないな、あれ」
「完全に舞い上がってるな」

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