「夏といえば?」
「かき氷!スイカ!トウモロコシ!」
「ぜんぶ食い物だな」

あとは海とか、セミとか、夏休みとか。
いつもの朝の通学路、連想ゲームのように単語が列挙されるなかで出た「怪談」の言葉から話が膨らんでいくことに、若干冷汗をかいた。
私は、お化け屋敷が苦手だ。ホラー映画とか観る人の気が知れない。自ら好んであんなのを見るなんて、ドMなんじゃないかと思う。
お化けは怖いけど、たとえばMANKAI寮の七不思議とか、不思議な出来事程度の怖くないものなら平気だ。ちょっとした怪奇現象ならばむしろ好奇心がそそられる。

「そうそう、怖い話とはちょっと違うけど、私の部屋ってちょっとおかしいみたいなんだよね」
「ちょっとおかしい?」
「うん」


もう数年前になるけれど、伊助くんに預けられて、私がMANKAI寮に移った頃のこと。

「おや?こんなところに部屋なんてありましたっけ?」
「何言ってるの、伊助くん」

寮のなかを案内すると歩き始めてすぐ、伊助くんは一つのドアの前で足を止めた。ひたすら首を捻る伊助くんによれば、こんな場所に部屋なんてなかったはず……らしい。
ずっと住んでる場所なのに、部屋を忘れるなんて変な話だ。
なかを見てみても、おかしなところは特にない、他とそう変わらない作りの部屋だった。多少小さいけれど。
それでもやっぱり伊助くんは「あれれ?」なんて言い続けているから、なんとなく面白いなって思って、「じゃあ私の部屋、ここにするね」と決めたら大層驚かれてしまった。いいじゃん、本来無かったはずの部屋なんて、面白そうだし。それに実際、ここにあるし。私は伊助くんが謎のど忘れをしているに一票だけど。


「でも、亀吉までこんな場所に部屋なんてなかったって言うから流石に変だなって思って」
「そ、その部屋、結局どうしたの?」
「今も私の部屋だけど」
「マジか」

変だなーって思いつつ、私の部屋となったその部屋が消えるとか、何か怖いことが起きるとか、そういうことは一切なく、今に至っている。
MANKAI寮の七不思議だと、近いのは開かずの間な気がするけれど、確実にそれとは違うちょっとだけ不思議な出来事。って言っても、寮の設計図みたいなものとか確認はしていないから、伊助くんと亀吉がどういうわけか不思議な思い違いをしているだけで、普通に最初からある部屋かもしれない。

「よくその部屋にしたな。その頃、他の部屋は誰もいなかったんだろ?」
「そうなんだけど、なんだか劇団の人が使ってた部屋を使うのも違う気がしたし、やっぱり謎の部屋、気になったし」
「なまえちゃん度胸あるなー」

すげーって感心する九門くんに続けて莇くんが「怪談話は弱いくせにな」って言ったから、私は大いに慌てた。

「えっ、莇くんなんでそれっ」
「さっきから青い顔して慌ててただろ」
「マジ!?オレ全然気付かなかった」
「かなりわかりやすかったけど」

気付かれていたことが恥ずかしいような、屈辱なような、でも莇くんが気付いてくれて嬉しいような。そんな気持ちが複雑に絡み合って、頬が熱くなる。それで結局出た結論が、莇くん好き、なんだから私は大概バカなのかもしれない。

「みんなには内緒にしてね……」
「わかった!」

これまで夏のホラー番組とか、うまく逃げてきたんだから。

「もうバレてるような気もするけど」
「どうしよう、莇くんに言われたらそんな気がしてきた」

<< top >>
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -