冬のはじめに

あの子と俺は、どこか似ているような気がした。

小さい頃に訪れた劇場が、そのまま彼女の夢になったという。劇団員がいなくなり、劇場が潰れそうになって、どうしても夢のために何かがしたくてここに来たんだと、名前ちゃんは目をキラキラと輝かせながらも、少しだけ恥ずかしそうな面持ちで話してくれた。
俺も、小学校の時丞と一緒に劇をしてから演劇が大好きになって、……やめようと思ったのに結局諦めきれなくて、ここに来た。
一度は夢を諦めた俺なんかと一緒にしたら失礼だけど、自分の夢に向かって手を伸ばさずにはいられないその気持ちが、少し、分かる気がした。

君の夢を託されて、春、夏、秋とみんながこれまでやってきた全てを引き継いで、俺達が舞台に立つ。
その結果がどうなるか、今はまだ分からないけれど……いつか名前ちゃんが見たっていう、夢のような劇場の様子を俺達も見られたらいいなって思うよ。
そして願わくば――

「わぁ!花壇、随分きれいになりましたね」

にこにこと穏やかに笑いながら歩いてきた女の子は、「あ」と何かを思いついた声を出した後、「変わっていく様子を写真に撮っておけばよかったかも」と残念そうに眉を下げた。しょんぼりする理由が可愛らしくて、つい笑みがこぼれる。

「臣くんや一成くんが何度か写真は撮ってくれたよ」
「よかった!さすが臣さんと一成さん!」

パッと明るくなった表情にホッと肩の力が抜けた。当り前だけど、笑っていてくれるのが一番いいから。

俺が花壇で作業をしていると必ず「何かお手伝いできることはありますか?」と聞いてくる名前ちゃんは今日も例にもれず同じ質問をしてくれたので、一緒に雑草を抜いてくれないかとお願いをする。笑顔で応えてくれる名前ちゃんは、本当に劇団のことが大好きで、一生懸命な、優しい子だ。
二人で並んで雑草を抜きながら、雑談をする。勉強を教えていることもあって、結構話す機会が多い名前ちゃんとは、話していると春の陽だまりにいるような、穏やかな気持ちになる。
少し前まで演劇とは無関係の生活をしていた頃の俺が今の生活を見たら、驚くだろうな。しかも、丞と同じ劇団なんて。そう考えたらおかしくて、自然と口元が緩んでいた。

「この花壇に沢山のお花が咲くのが楽しみですね」
「そうだね」

名前ちゃんの横顔を見て、ふと、さっき考えていたことの続きを考える。

――願わくば、頑張り屋の名前ちゃんが、夢が叶ったと笑う姿が見られますように。
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