冬支度

公演が終わった後、太一くんに改めて謝られた。問題が起きたのを私が気付かなかった所為だと、私が意固地に自分の責任だと思い込むことで、意図せず太一くんを傷付けてしまっていた。私は何も悪くないってみんな言ってくれていたのに。
そのことを反省して私こそごめんなさいと謝ったら、「悪いのは俺で!」「でも私がっ」なんてお互いに謝り続けて収拾がつかなくなってしまった。見かねた臣さんが「それくらいにしておけ」と間に入ってくれて、お互い、もう言いっこなしで、と話がまとまった。そうして笑い合えることにホッとして、秋組公演を終えてまた更にこの場所が、劇団が、好きになった気がする。

「名前ちゃん、何してるの?」
「倉庫にあった小道具、埃被ってたから綺麗にしようと思って」
「俺っちも手伝うッス!」

それ以降、太一くんには前よりも懐かれた気がする。
「ありがとう」とお礼を言うと、嬉しそうに笑う太一くんにぶんぶん揺れる尻尾が見えた気がして、クスリと笑う。幸くんが犬って表現するのがちょっとわかるかも。「バカ犬」って呼ぶ幸くんには、バカは良くないよって注意したけど。でも太一くん本人が全然気にしないなんて言うから、それからはなんとも言えずにいて、そのうちに完全にあだ名として定着してしまった。いいのかなぁ、でも、太一くんにこにこお返事してるしなぁ。……三好さんもか。

「名前ちゃん、もう風邪は大丈夫ッスか?」
「うん、完全に治ったよ。ご迷惑をおかけしました」
「迷惑なんて全然かかってないッスよ!」

ぶんぶんと両手を振る太一くんに、優しい子だなぁって改めて思う。このカンパニーの人は、本当にみんな優しい。
私の熱に気付いてくれたのは万里くんで、寝込んでいる間はしばしば誰かしらが私に声をかけて、気遣ってくれた。
主に看病してくれたのはいづみさんや日中も寮にいるシトロンさんで、至さんや一成さんは欲しいものはないかと何度も聞いてくれた。
三角さんと椋くんは一緒に元気が出るサンカクを探してきてくれて、幸くんは太一くんの裁縫の練習のついでだと言いながら可愛い枕カバーと布団カバーを用意してくれた。お陰で体調が回復してくると憂鬱な、ベッドでひたすら寝るということが大分嫌ではなくなった。
部屋のドアにかかっていたスポーツドリンクは誰からだろうと首を傾げていたら、真澄くんが置いていってくれたのだと咲也くんが教えてくれた。咲也くんによれば、いつも私に氷枕を用意してくれていたのは左京さんらしい。ひんやりしていて気持ち良かった。
有名なフルーツのお店のゼリーは天馬くんが、アイスは十座くんがオススメのものを買ってきてくれて、臣さんと綴さんはびっくりするほど美味しいおかゆを作ってくれた。
いつもしている掃除を私の代わりにやってくれていたのは支配人だそうで、お礼を言えば、「いえ、私の仕事でもありますから!でもやっぱり一人じゃ大変なんで、早く元気になって下さいね〜。左京さん、細かいところまで厳しいったら。まるで小姑ですよ、小姑!」と返された。支配人の言葉は、私が必要だって言ってくれているみたいで、それがすごく、すごく嬉しかった。

「申し訳なかったけど、みんなにすごく良くしてもらえたのは、とっても嬉しかったんだ。MANKAIカンパニーの人はみんな優しいよね」
「うん!でも名前ちゃんだから余計に優しかったんだと思うよ」
「そうかなぁ」

相手が誰でも、態度は多少違っても同じようなことをすると思うけどな。あ、でもいづみさんだったら、私含めてもっとずっと大変な騒動になりそう。

「万チャンなんて、いっつも名前ちゃんの心配してたッスよ。ちょっとびっくりしたッス」
「万里くん、実は優しいもんねー」

見た目と態度が、特に態度がそう思わせないけれど。

「んー、っていうか……」
「うん?」
「……ううん、やっぱなんでもないッス!」

ニカッと笑った太一くんは、本当になんでもないって風で小道具を拭く作業を続けるから、じゃあいいのかな、と私もそれに従って手を動かすのに集中する。

「(名前ちゃんのことで頭がいっぱいに見えた――なんて、俺っちが言うことじゃないもんね、万チャン)」
| top |
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -