千秋楽

今日は新生秋組第一回公演、『なんて素敵にピカレスク』の千秋楽。朝からバタバタと忙しないのだけど、ふと秋組の人が目に入った時なんかには、つい少しだけ手が止まって感慨に耽ってしまったりする。

最初、寮で会って早々物凄い剣幕で喧嘩している万里くんと十座くんを見た時は怖くて仕方がなくて、秋組自体どうなることかとも思ったし、やっぱり色々怖かった。ちょっと前のその日々が、今ではすごく遠いような、同時につい昨日のことでもあるような、ふしぎな感覚だ。
今日、秋組の五人全員が納得して舞台に立てる。それが嬉しくて、誇らしい。
なんて、私は何もしてない身だけれど。

「いってらっしゃい。みんなの舞台、楽しみにしてるね!」
「おう」

私は手伝いがあるから、早めにみんなにそう伝えて持ち場に移動した。
頷いたみんなの表情は気合が入っていて、それを見ただけで期待と高揚で速まった鼓動を抑えるように、胸の上に手を置く。
GOD座の人達、観に来るのかな。観に来たら、きっと度肝を抜かすだろう。だって秋組のみんなのお芝居はとっても素敵だから。それに、今日の舞台は今までで一番良くなる。絶対に。
春組、夏組で観てきたものを思い出して、自然と口元が緩んだ。

***

――お客さんの熱気が、喝采が、劇場を包んでいた。
思った通り今日のお芝居は一番良くて、そして、期待以上というか、私の頭では想像も出来ないくらいの、良い舞台だった。
終演後の、あの独特の空気が今も尾を引いている。お祭りが終わった後のような寂しさと、すごいものを見てしまったという高揚と、そして早く皆に会いたい焦燥がないまぜになって、いざ秋組のみんなといづみさんに会った時、私は泣いたらいいのか、笑ったらいいのか、よくわからない顔をしていたと思う。どっちにしろ既に涙は十分流れていたけれど。

「お疲れ様でした!」
「お疲れ」
「お疲れ様」

私の顔を見るなり、「やっぱり名前ちゃん、泣いてる」とおかしそうに笑ったいづみさんには、春夏と千秋楽で号泣しているのを見られている。もしかしたら私の身体自体、千秋楽は好きなだけ泣いていいと覚えてしまっているのかもしれないと、若干呆れと不安を感じた。

「だって、すっごく良かったから!」

特に今回これまでと演技の雰囲気をガラッと変えてきた太一くんには驚いたし、目を奪われた。そう話せば、太一くんは眉を下げてはにかんだ。

「そうだ万里くん、私、沢山泣いたよ。最高だった」
「それは、俺達の演技にだろ?」
「うん」
「俺の、じゃねーからまだ挑戦は続行だな」

万里くん、こだわりすぎでは……?
でも、目標を持ってるのはいいことなのかな。私が泣くのなんて、自分で言うのもなんだけど、かなりチョロいと思うんだけど。

「……覚悟して待ってます」
「おー、期待してろよ」

にやりと好戦的に笑う万里くんが楽しそうだから、やっぱりこれでいいのかな。自分で納得して、うん、と頷く。
でもこうも繰り返し宣言されると、ちょっと怖くもなってくるなぁ……。

「そうそう、名前」
「うん?」
「ただいま」

え?
なにが?と思ったところで、そういえば公演に迎う万里くん達にいってらっしゃいって言ったことを思い出した。もしかして、それに対するただいま?
律儀だなんて、なんだか万里くんのイメージとは違う言葉が浮かぶことがおかしくて、でも、嬉しくて。

「おかえりなさい」

もう完全に慣れた言葉を口にするのが、無性に嬉しいと感じた。

熱くて、迫力があって、面白くて。ずっと観ていたいと思うようなお芝居だった。けれど、その舞台を後にした万里くんに「ただいま」と言われることが、「おかえり」と迎えられることが、こんなに嬉しいとは思わなかったな。

「おい、準備はいいか?」
「打ち上げの準備、出来てるよん!」
「天馬くん、一成さん」

夏組の面々に急かされて、MANKAI寮へと戻る。
胸の中は熱くて仕方がないのに、木枯らしが思いの外冷たくて、ぶるりと身を震わせた。
踏みならした落ち葉の音は、冬の始まりを告げているのかもしれなかった。
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