きみの居場所

太一くんの、痛いくらいに切実な願い。努力。
こんなことをしていいわけないことも、こんなことをしてGOD座で役をもらったところできっとどうにもならないことも、知っていて、それでもGOD座の主宰の話を受けずにはいられなかったのだろう。……そしてその人は、もしかしたら、太一くんがそれほどの想いを抱いていると知っていたからこそ、太一くんに声をかけたのかもしれない。
そう思ったら、憤りでお腹の中が熱くなった。はらわたが煮えくり返るって、こういう気持ちのことを言うのかな。

「てめぇのしたことは許されることじゃねぇ。でもてめぇのことは許す」
「どっちだよ」
「罪を憎んで人を憎まず。太一のことは許すってことだろ」

十座さんや臣さんの言った通りだと思う。
太一くんが最初に謝ってきた時は到底信じることが出来なかった、彼の行った行為。けれど、太一くんのポートレイトを観た今、悲しいけれど、苦しいけれど、やっと、あれらを太一くんがしたんだと、認めることが出来た。なんて、おかしな言い方かもしれないけれど。
だってやっぱり太一くんは……やったことも、気持ちも、隠し事は色々とあったものの、それでも太一くんは、私達が知っている太一くんだったから。秋組のオーディションをしたその日から、ずっとMANKAIカンパニーの劇団員として過ごしてきた、太一くんだったから。
だから、誰も彼を責めたりはしなかった。私も、そんな気にはならない。もっとも、私はとやかく言える立場ではないんだけど。

「俺、やっぱりみんなと芝居がしたいよぉ……っ」
「太一くん……」

いづみさんが、まるで自身が痛みを抱えたような顔で、膝を抱えて泣いている太一くんを見つめる。

「お前は、どこの七尾太一なんだよ」
「――え?」
「GOD座の七尾太一なのか?それが、今の本当のお前なのか?」

万里くんの言葉に、太一くんがぽかんとした後、躊躇いを見せる。万里くんに続いて、十座くん、いづみさんと、彼の背中を押すように言葉をかけていき、太一くんの顔が歪んだ。「俺は――」と太一くんの緊張した声に、息を潜めて、続きを待つ。

「MANKAIカンパニーの……秋組の七尾太一ッス!」

言い切った太一くんに、秋組のみんなが微笑んだ。
秋組のメンバーが、GOD座が何をしてきても守ってやるって言うの、心強すぎるなぁ。脅迫状が来た時も思ったけれど。
それに、万里くんがいつの間にか、文句なしに秋組のリーダーになっている。それが嬉しくて、頼もしくて、かっこいいなあ、なんて目を細めた。
ほんのりと談話室を包む温かさが嬉しくて、涙が出る。って、太一くんのポートレイトの時からずっと泣きっぱなしだけれど。

「お前ら、GOD座が何してこようが、絶対明日の舞台成功させっぞ!」
「おう」
「おう!」
「当然だ」
「うんっ――っ」

――ああ、温かさなんて思ったけれど、秋組の空気ってそんな優しいものじゃなかったな。
そう思ったらおかしくて、泣きながら笑った。
明日の公演……やっぱり、すっごく楽しみだ。

***

「うぅ……」

すぐ止まると思っていた涙は、結局感極まった所為か全然止まらなくて、ちょっぴり困っている。
迷惑にならないように、いつものようにみんなからちょっと離れたところで顔を覆う。部屋から来るのにハンカチなんか持ってるわけがなくて、ティッシュで涙を拭いていたら、私の前に誰かが立った。……万里くんだ。

「今回のはノーカンな」
「うん?ノーカンって……?」
「俺の芝居で泣かしてやるってヤツ。名前、太一の時点ですげー泣いてたじゃん」

だからノーカン、と泣きすぎな私に呆れるように万里くんが笑う。
……そういえば。そんなこと言われてた、なあ。
申し訳なく思うけれど、この状況下なんだから、今回ばかりは忘れていたのは許してほしい。
でも、多分万里くんの番が最初でも、私は泣いていたんじゃないかな。だって万里くんのポートレイト、すごく……本当に、すっごく良かったから。
そう思ったけれど、言ったところで万里くんは納得してくれなさそうだから、私はティッシュで目を覆ったまま「わかった」とだけ呟いた。泣いているからすごく情けない声になっていて、恥ずかしさにぎゅうとティッシュを顔に押し付けた。そうしたら万里くんがちょっと笑ったから、羞恥心が更に増す。

「……ぇ」

一度だけ、ふわりと、温かな手が私の頭を撫でた。
今のって、万里くん……?と突然のことに驚いて顔を上げた時には、万里くんは私から離れていっていて、それ以上何も言えなくなる。
驚いて涙が引っ込んだなんて、なんだか間抜けで、私は戸惑いながらティッシュを丸めた。
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