差し入れ作り

「万里くんって何でもできるんだよね?」
「まぁ、そーだな」
「ちょっと手伝ってほしいことがあるんだけど……」

臣さんはレポートの提出期限か近いとかで、最近忙しそうにしている。それでも笑顔でみんなのご飯を作ってくれて、本人は気分転換になるし無理なんて全然していないって言うけど、ちょっとでも忙しい臣さんを労えたらなって思った。そこで前に臣さんと話した、今度は私がスコーンを差し入れする約束を思い出したんだけど……。

「一人で作るのは自信がなくて。もしよかったら万里くん、一緒に作ってもらえないかな?」
「そういうことなら構わねぇけど」
「ありがとう!私レシピ見てても時々何故か分量間違えちゃうから不安で」
「そういや一昨日も綴さん呼んでたな」
「見られてた!」

恥ずかしさで思わず大きな声を出した私に、万里くんがからからと笑う。普段大人びている万里くんが時々見せる年相応の笑い方に、私は毎回びっくりしてしまう。少しずつ見る機会が増えてきたその笑顔は、前よりも心を開いてくれている気がして勿論嬉しいんだけど、なんていうか、不意打ちだし、万里くん顔がいいからドキッとしちゃうっていうか。

料理は、臣さんに教わって、最近大分慣れて失敗も減ってきたけど、やっぱり時々お醤油を入れすぎてしまう。
臣さんへの差し入れなのに、私だけだったらスコーンでもそういうことをやらかしちゃいそうだから、と素直に万里くんに言えば、「俺がちゃんと見とくから安心しろって」と言ってくれた。万里くんがそう言ってくれると、本当に安心出来るなあ。

「えーっと、じゃあ先ずは薄力粉と――」
「……」

材料の準備をしようと手を伸ばしたら、万里くんに止められた。

「それは俺がやる」
「え?」
「なんっか嫌な予感がすんだよな……」

……そう言われると、薄力粉をぶちまけそうで怖くなってきた。

「言われてみれば、これまで小麦粉とか使う時も臣さんや綴さんが準備してくれていた気が……」
「名前、ちょいちょい抜けてるもんな」
「え?そう?」
「自覚なしかよ」

材料を準備したら、生地を作って寝かせる。そして予熱しておいたオーブンで焼く。大まかに言えばそれだけ。それだけと言えばそれだけだけど、上手にできるかはまた別。全然別。

「どうかな?」
「ん、そんな感じでいいんじゃね?」

でも、隣にいる万里くんが頷いてくれるとものすごく安心するし、大丈夫だって自信が持てるのは、万里くんが万里くんだからだろう。自他共に認める「なんでもできる」のパワーはすごい。

「あとは焼き上がりを待つだけだね!」
「この様子なら、それなりのものにはなるんじゃね」
「うん!万里くんが一緒に作ってくれて本当によかったよ。ありがとう」

万里くんの言った通り、できあがったスコーンはいい感じで、持っていったら臣くんも、同室の太一くんも喜んでくれた。「また食べさせてくれ」って言ってもらえるのって、こんなに嬉しいことなんだなぁ。

「たまにはこういうのも悪くねーかもな」
「じゃあ、また誘ったら一緒に作ってくれる?」
「暇だったらな」

そう言いながらも、きっと万里くんはまた作ってくれるんだろうなって思うのが、自分でもふしぎだ。
ほんのりと甘いスコーンのかおりが漂う空間は、それだけでほっこりと幸せな気持ちになる。それを万里くんと作ったって、よく考えたら少し前の私に言ったらびっくりするかも。だって、万里くんが今真面目に稽古に参加してくれてることすら、ずっと願ってはいても、なかなか実現する糸口は見つけられなかったから。

「そうだ、甘いもの好きみたいだし、十座くんにも――」
「それはぜってーダメ」
「ええー、万里くんのケチ」
「ケチで結構」

さっき談話室に来た椋くん達にスコーンをあげるのは何も言わずに見てたくせに。
後でこっそり十座くんにあげようかなって思っていたのに、どういうわけかしっかりそれを察知した万里くんに当然のように止められた。

「いいよ、今度は一人で作ったやつを十座くんにあげることにするから」
「余計ダメだろ」
「なんで!?」
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