四人とひとり

万里くんが出ていったことを聞いたいづみさんは案の定、万里くんを追いかけて話をすると言った。いづみさんは、きっとそうするって思ってた。

「名前ちゃん、お願い」

ただ、いづみさんに秋組のみんなのことを頼まれたのは意外で、思ってもなかった役割が与えられたことに緊張して、さっきご飯を食べ終えた胃が急に重くなったような気がした。
役割って言ったって、雄三おじちゃんのところに行く引率のようなものだし、そもそも引率が必要なメンバーでもないから、本来、そう気負うこともないと頭ではわかっている。
でも、いづみさんにお願いって言われたら、がんばっちゃうしかないじゃない。

***

秋組の四人と私で劇場に入ってすぐに雄三おじちゃんと会った。おじちゃん達に挨拶をして、劇場の案内をしてもらう。この後は打ち合わせを予定していて、今はその待機時間だ。
それぞれがノートを見返したりして準備をするなか、左京さんに声をかけられた。

「お前は監督さんと行くと思った」
「え?そうですか?」

一応一度は万里くんと会ったし、いづみさんに秋組のことを託されたのだから、そんなつもりはさらさらなかった。
だから左京さんにそう言われたことに驚いたら、私の表情を見た左京さんが言葉を続ける。

「摂津のこと、まだ諦めてねえんだろ」
「はい」

即答すると、左京さんが僅かに眉をしかめる。

「だって、万里くんも、十座くんも、太一くんも、臣さんも、左京さんも。誰一人が欠けてもいけない、この五人で秋組なんだって思っているので」

そう、万里くんだけじゃない。このなかの誰が欠けても、きっと違う。
年齢も、きっかけや動機もそれぞれ違っているけれど、みんな、このカンパニーに集まったのだから。
そうして集まった全然違う五人が一緒になってどれだけ素敵な舞台を作れるかは、私はもう二回もこの目で見てきたのだから知っている。

私の言葉を聞いて、左京さんは、はぁ、と溜め息を吐いて、臣さんは穏やかに微笑んだ。十座くんは小さく頷いてから、万里くんのことを思い出したのか苦虫を噛み潰したような顔をした。そして、太一くんは僅かに目を伏せた。その反応は普段の彼からしたら意外だったけど……緊張してるのかな。あとで声をかけてみようかな。

まあ、でも秋組の五人は……

「見た目は若干怖すぎるんじゃないかなとは思いますけど」
「言うじゃねえか」
「ヒッ」

眼鏡を上げながら口角を上げる左京さんが不穏で怖い。縮こまってびくびくしたら、臣さんが「万里を追いかけに行った時といい、名前ちゃんが思ったことをはっきり口にしてくれて嬉しいんですよね、左京さん」と、左京さんの雰囲気とは全然違うことを言い出したから、そんなわけないでしょう…!と言いたくなるのを必死で抑える。臣さん、よくこの場でそんなのほほんとしたことを言えるものだ。

「……チッ」

舌打ちをした左京さんは、それきりで、臣さんの言葉に何を言うでもなく自分のノートを捲る。
……否定、しないのかな。
実はほんのちょっとでも臣さんが言ったことが正解だったりしたら、嬉しいんだけどな。

「……万里くんのこととか、気になることはあるかもしれないですけど、そっちはいづみさんが行ってくれてるから大丈夫です。だからみなさんは、今はただ、ご自分のお芝居のことだけに集中して下さい」
「随分信頼してるんだな」
「はい!いづみさんはすごい人ですから」

信頼してるし、尊敬してる。
迷いなく答えたら、左京さんが小さく笑った。
わ、笑った……!

「そうだな。この先の舞台のためにも、まず俺達がここで頑張らないとな」
「っす」
「がんばるッス」

うん、と頷いて、四人を見る。
大丈夫。
──いづみさんが任せてくれた四人は、大丈夫です。きっと、みんな素敵なポートレイトを見せてくれます。
心のなかでいづみさんに語りかけながら、今頃二人はどうしているだろうと、いづみさんと万里くんのことを考えた。


みんなの飲み物を買ってくると伝えたら、十座くんと太一くんが一緒に行くと言ってくれたけど、みんなには本番に向けて集中してもらいたいからと遠慮した。
結局、途中で会った雄三おじちゃんが打ち合わせに行くついでだと手伝ってくれたので、私は缶ジュース二本しか持たず、随分と楽をしてしまっている。

「摂津は来ねぇのか?」
「うん……。 でも、大丈夫!その分、四人が頑張ってくれるから。おじちゃんも楽しみにしててね!」

ぽん、と久し振りに頭に乗った手は昔から変わらず温かくて大きくて、懐かしいその温もりに、少しくすぐったい気持ちと泣きたい気持ちが混ざり合った。
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