お留守番組の夜ご飯

「じゃあ名前ちゃん、色々とよろしくね」
「はい、がんばります!いってらっしゃい!」

流石にまだ、任せて下さい、と胸を張って言うことは出来ない私だけど。でも、いづみさんに留守を任されたのは、嬉しいし誇らしい。
いづみさん達についていこうとする真澄くんを苦労して宥めながら、晴れた空の下、支配人、いづみさん、そして夏組の七人は合宿へと向かった。私は春組のみんなと亀吉とお留守番だ。

***

「ということで、今日の夜ご飯はお鍋です!」
「真夏に鍋……」
「暑い」

だってお鍋だったら失敗する心配も少ないし、野菜とか一気にとれるし、それにこの人数ならぎりぎり鍋を囲めるし。

「そう言われると思って、キムチ鍋にしました。夏に辛いものを食べるのは定番でしょう?ほら、おかしくない!」
「名前、ムチャクチャダヨ」
「シトロンさんに言われるとは思わなかった……」

ちょっとショックを受けたら、「それはたしかに」と綴さんが苦笑した。

「でも、夏の鍋もオチネ!」
「シトロンさん……!」
「乙だけどな」

やっぱりシトロンさんは優しかった!
言葉自体は間違っていたけれどシトロンさんからのフォローに感激したら、至さんに「名前ちゃんは妙にシトロンに懐いてるよね」と不思議そうな顔をされた。だってシトロンさん、紳士だもの。

蓋を開けると、キムチのにおいと一緒に、むわっと熱気が漂う。私達の真ん中でぐつぐつと煮える鍋を見ているとそれだけで汗が出るけれど……それもまた夏ならでは、ということで。
「とにかく、いただきませんか?」と咲也くんが言ってくれて、みんなで鍋を食べ始めることになった。流石春組リーダー。こういう時音頭を取ってくれて、ありがたい。

「あ、うまっ」
「おいしいですね!」

はふはふ、ふぅふぅ。
クーラーをがんがんに利かせていても、食べたそばから暑くなる。白菜を咀嚼しながら、つ、と汗がこめかみを伝った。
思った以上においしく出来たかも。
みんなが口々においしいと言ってくれて、嬉しくなる。

「夏のキムチ鍋、サイコーダヨ!」
「これはたしかに否定できない」
「暑いけど」

そう言いながら更に具材をよそった真澄くんも、きっと不味くはないんだろう。よかったぁ。

「綴さんのもよそいましょうか?」
「お、ありがとな名前」

順調に減っていく鍋の中身を見て、そろそろシメの準備をしてもいい頃合いかな、と腰を上げる。
三角さんが入ってからというもの、ご飯はやたらおにぎりが多いんだ。ただでさえカレーばっかりなので、とにかく寮の食事は白米が使われる。

「今回のシメは、ラーメンを用意してみました!」
「っしゃ!」

白米おいしいし、最高だし、全然飽きもしないけど、でもやっぱり普段あまり食べないものが出たら嬉しいよね。春組は学生が多いし、社会人の至さんなんて学生組以上にジャンキーなものが好きだ。と考えた末選んだラーメンなのだけど、予想以上に大喜びされて、ちょっと驚いた。

多めに準備したつもりだったけれど、結局丁度良く完食された鍋の片付けをしていたら、至さんが「……ねえ、俺すごい良いこと思いついちゃったかも」と至極真剣な顔で呟いた。

「なんですか?」
「これの後に食べるアイスって最高じゃない?」
「!」

絶対おいしい!
至さんの言葉に、全員の目が輝いた。
でもアイス、お昼になくなっちゃってるんだよね。

「……ということで」
「いきますよ! じゃんけん――」

ぽん!
咲也くんの掛け声と同時に、六つの手が出される。一発で決まった勝負は、なんと綴さんの一人負けだった。

「マジかよ」
「安定の綴」
「そんな気はしてたヨ」

ふう、とシトロンさんが大袈裟に肩を落とす。

「早く行ってきて」
「お前な、もっと言い方ってものがあるだろ!」
「オレも一緒に行きましょうか?」
「私も」

たしかに外は暑いけど、綴さん一人で行かせるのも、と咲也くんと私が手を上げる。負けた人が全員分のアイスをダッシュで買ってくるという条件だから、私だと足手まといになる可能性はあるけれど。

「いいんだよ二人とも。勝負に負けたのは綴だし。ね、綴?」
「重いものでもないし、いいっすけど……!」

「んじゃ、ひとっ走り行ってくるっす」とスニーカーを履いた綴くんは、思った以上にすぐに帰ってきたからびっくりした。私がついていってたら、本当に足を引っ張っちゃってたなぁ。

「んーっ、冷たくておいしいー!」
「鍋の後のアイス、最高だねっ」
「ね!」

咲也くんの言葉に、私は大きく頷いた。
舌の上で溶けるアイスの甘さに頬が緩む。しあわせだなぁ。

春組の人達だけと過ごすのって、なんだか久し振りだな、なんて思うくらい、いつの間にか夏組のみんながいるのが普通になっていたみたい。ちょっと前までは、このメンバーだけなのが普通だったのに、ふしぎな感じ。
いつもより騒がしさが減っているのが寂しくもあり、この空気が懐かしくもある。その両方を感じられるのは、きっととても贅沢なことだ。
なんか、嬉しいなあ。
体の中にじんわりと広がる熱をバニラの甘さが優しく包んだ。
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