再びの日常
夏組合宿がいいものになるといいなとは思っていたけれど、まさかここまで劇的に変わるとは思いもしなかった。
合宿から帰ってきた夏組のみんなは、普段の様子からして変わっていた。
一言で言えば、とっても仲良くなっていた。
それはもちろんお芝居も変えていて、それぞれの個性がぶつかってバラバラだったのがかみ合うようになったというか、今はお互いがお互いをちゃんと見ていて、認めてる、みたいな感じがする。
専門的なことはわからない私にも、良くなったのは一目瞭然だ。
「合宿に行ったの、大成功でしたね」
「うん。色々あったけど……それがあったからこそ、こうしてまとまってきたんだと思う」
嬉しそうに夏組を見つめるいづみさんに、「ありがとうございます」とお礼を言ったら不思議がられた。
もちろん、夏組のみんなが頑張ったからこうなったのはわかってるけど、でも、いづみさんがいなければそれもきっとなかったから。
合宿中に椋くんや一成さんが送ってくれた写真を見せたら、「この時はね、」といづみさんが合宿での出来事を話してくれた。
そこに丁度、圧倒的な数の写真を撮っていた一成さんが合流して、更に細かく話を聞かせてくれた。色んな楽しい話を聞かせてくれる一成さんは、周りのことをよく見ていて、人のいいところを見つけるのが上手な人なんだなって思う。にこにこして話を聞いていたら、その笑顔まで褒めてくれて驚いた。
もちろん春組とのお留守番も楽しかったけど、話を聞くと、やっぱり遠くに出かけるの、いいなあと思ってしまう。
私も行ってみたいなあ、合宿。
***
「わあ!このおにぎり、きれいなさんかくー!」
「そうですか?よかった」
「名前、さんかく上手ー!」
すごい、すごいと褒めてくれる三角さんに、くすぐったい気持ちになった私は照れ笑いを浮かべた。
三角さんのやわらかくて素直な言葉は、微笑ましくもあって、嬉しくもあって、いつも自然と笑顔になる。
どうやら、私は三角さんが絶賛するおにぎりを三つに一つくらいの確率で作れているらしい。
ちなみに、三角さんに選ばれなかったおにぎりは大体天馬くんに渡される。三角さん、天馬くんのこと大好きだなあ。多分、天馬くんのことが弟分みたいで可愛いんだろうなって思う。
そして天馬くんが動いているのを見るたび、つい「本物だ!」なんて内心思ってしまっていた私も、最近やっと皇天馬が寮にいるということに慣れてきた。
「てんまにあげるー!」っておにぎりを差し出す三角さんと、「それお前が選ばなかったヤツだろ!」とすかさず返事をする天馬くんの息は案外あっていて、なんだか面白い。「そっちとなにが違うんだ?」って結局おにぎりを受け取りながら首を傾げる天馬くんだけど、実は私もそれがわからない。私としては同じように握っているつもりだから、三角さんに喜ばれるおにぎりをもっと作れるようになりたいものの、何がどう違うのか、全然わからないのだ。前に、「ここの角がねー」と三角さんに説明をしてもらったけど、残念ながら全くわからなかった。
「こっちのおにぎりは、さんかくがさんかくしてるんだよー」
「天馬くん、わかる?」
「いや、まったく」
当然のようにわからないと即答する天馬くんに苦笑する。
「夏組リーダーの天馬くんでも無理かあ」
「リーダーとこれは関係ないだろ!?」
「そうかなあ」
「天馬と名前がなかよししてる!オレもするー!」
「うわ!」
どーん!と三角さんが天馬くんに突進したのに驚いて目を丸くする。結構遠慮なかったと思うんだけど、それでも倒れない天馬くん、すごい。
「あははっ、ほんと、仲良しだ」
「名前さん、他人事だと思ってるだろっ」
「思ってないよー、みんなで仲良しなんでしょう?」
「そうだよー!」
三角さんとにこにこ笑いあえば、天馬くんは納得いかないように口をへの字に曲げたけど、彼の素直になれない性格は、今では寮のみんなが知っている。
「うわ、暑苦しっ」
「あ、幸くんだ」
「暑苦しいとはなんだ!」
「見たままの感想だけど」
幸くんと天馬くんの口喧嘩は相変わらずで、でもこれはこういうコミュニケーションなんだろうなって最近は思う。
「そうそう、名前。時間が合えば、これからは朝、一緒に行ってもいいから」
「……えっ!?」
「言っておくけど、時間が合えばだからね」
念を押す幸くんに、うんうんうん!と何度も頷いたら、「話本当に聞いてんの?」と眉を顰められた。だって、嬉しいから!
早速椋くんに会いに行けば、既に同じことを聞いていたらしくて、二人でハイタッチをした。
「やったね、椋くん!」
「はい!」
ああ、よかった。嬉しいなあ!椋くんのお陰だけど、ついでに私も幸くんに認めてもらえたような、そんな気分だ。