Sweet | ナノ


▼ 32

「まず、ご両親に挨拶しなきゃいけねーだろ」
「うん……?」

莇くんの恋愛観がきっちりしているのは前に話した時に感じたけれど、私が思った以上にしっかりがっちりしていたようだ。親に挨拶をするなんて考え、私にはなかったよ!
友達に、付き合い始めるにあたって親に挨拶に行くってどう思う?と聞いたら「絶対イヤ」「恥ずかしい」と返ってきて、だよねえ、と思う。私も恥ずかしい。「でも、そこまでしてくれるのって真面目で安心できるかも」と言った子の意見にも、また頷いた。莇くんがそんなにきちんと考えてくれるのは、たしかに、すごく嬉しいから。親に報告するのとか、やっぱり恥ずかしくて仕方がないけれど。

休日、予定をあわせて本当に私の家に来た莇くんが、背筋を正して「名前さんとお付き合いしたいと思ってます」とお父さんとお母さんに言った横顔が、「俺の家のことで、不安や心配もあるとは思いますけど……名前のことは、絶対に俺が守るって約束します」と迷いなく放たれた言葉が、凛々しくて、かっこよくて、ドキドキして、恥ずかしくて、でも嬉しくて。何度も何度も、思い返してしまう。
お父さんはあわあわしながら、「不束な娘ですが……」なんて言って、あと、いつぞや銀泉会の人に助けてもらったことのお礼を言っていた。どんな人だった、って特徴を言ったら、莇くんは心当たりがあるみたいだった。お父さんを助けたヤクザの人が莇くんの家の関係の人だって、改めて、なんともふしぎな感じ。
お母さんは、「こんなことになるかもと思った」なんて私達を見て、声を弾ませた。
莇くんがメイクアップアーティストになりたいという話をして、最終的にはお母さんと莇くんの化粧品相談会が開かれ、莇くんがお母さんにメイクを施して変身させて、お父さんもお母さんも私もびっくりするという、よくわからない展開になった。まあ、仲良くなれてよかったといえばよかったのだけど。
お母さんは次の日早速、オススメされたものを買いにいっていた。ついでに私にも色々買ってくれたから、やっぱり莇くんには感謝だ。

***

「初っ端から俺の家に行ったら、名前はびびるだろ」

そう言われて、忙しいお父さんに代わって莇くんのことを育ててくれたという人にまず会うことになった。なんとMANKAIカンパニーの役者さんでもあるらしい。第二のお父さんみたいな感じなのかなあ。
それを提案したのは莇くんなのに、会うまでに何度も文句を言って、心底嫌そうな顔をしていたのが気になったけれど。

古市左京さんという、厳しそうな見た目の、けれど思った以上に若い男の人を前に、声を上擦らせながら「初めまして、苗字名前です」と頭を下げる。

「コイツ相手にそんなかしこまらなくていい」
「おい、坊」
「坊って呼ぶなクソ左京」

低い声での、二人のガラの悪い応酬に、ぽかんとする。莇くん、こんな風に悪態をつくんだなあ。なんか、男の子って感じだ。
新鮮な気持ちで莇くんを見ていたら、気まずそうに、ふい、と目を逸らされてしまった。

「まぁ、この通り生意気なヤツだから色々と面倒をかけることもあるかもしれねーが、宜しく頼む」
「いいえ!えっと、莇くん、いつもとっても優しくて、頼もしいです」

面倒をかけちゃってるのは確実に私の方だ。そう思って左京さんにお伝えしたら、「ほぉ」と言いながら莇くんの方を見るから、莇くんが「こっち見んな」と怒る。うちの家とは随分雰囲気が違うけれど、きっと、二人は仲がいいんだと思う。

「おい坊。わかってるだろうが、ちゃんと節度を保った付き合いを……」
「はっ、当然だ」

偉そうに鼻を鳴らす莇くんと、神経質そうに眼鏡のフレームに触れる左京さん。仲良しって雰囲気は全然ないのに、流れるように会話する二人を見ていたら、なんだか面白くて笑ってしまう。

「二人は仲がいいんですねえ」
「は?」
「全然よくねぇ!」

左京さんは驚いたような顔をして、莇くんは、勢いよく否定したけれど。

本を読むのが好きだと話したら、左京さんも沢山本を読むそうで、私が好きな本の名前を出したら、ほとんど全部読んでいたのには驚いてしまった。

「その作者の本なら、前に書いていた作品もなかなか面白い」
「ひとつ前のシリーズですか?それ、気になっていて……!」

やっぱり、今度図書館に行ったら借りてみよう。そう心に決めて頷いたら、それまで黙っていた莇くんが退屈そうな声を出す。

「名前、あんまコイツに構ってやんなくていいから」
「なんだ、妬いてるのか?」
「うっせぇ!黙れクソ左京!」
「んだと、さっきからテメェは……」

口喧嘩が始まりそうな雰囲気に、慌てて止めようと莇くんの腕を引いたら、莇くんがすごくびっくりした顔で動きを止めた。

「け、喧嘩はダメだよ!」
「……いや、というか、腕」
「うで?」

縋るように莇くんの腕に回していた手を解いたら、はぁ、と莇くんが力が抜けたように溜息を吐いた。私は私で、勢いで触ってしまったことに後からドキドキしてきて、両手を握りながら縮こまる。
そんな私達の様子を見て、「まぁ、今のところ心配はなさそうだな」と呟いた左京さんの真意は、よくわからなかった。

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