Sweet | ナノ


▼ 26

きっかけは、ある日突然、なんてことのない場面で訪れた。

「泉田くん、どこか遊びに行きたいです!」
「なんだよ、突然」
「だって、無事進路が決まったし。パーッと遊びたいよ!」

泉田くんも私も、進路が決まった。私は安心感と解放感で満たされていて、最近は常に絶好調な気分だ。しかも、泉田くんの行く土筆高校と私の学校は結構近くにあるから、余計に嬉しい。

「遊ぶって、どこに行くんだ?」
「え……どこだろう」
「おい」
「だって、泉田くんと遊べたらどこでも嬉しい」

素直にそう伝えたら、泉田くんは「あのなっ……!」と何かを言いかけて、でもそれからふーっと息を吐き、「しょーがねえな」と了承してくれた。やったあ!

「日付だけ先に決めるか」
「うん!」
「どこ行きたいか、考えとけよ。俺も探してみる」

そう言って、微笑んでくれる。
その言葉が嬉しくて、そうやって笑ってくれるのが、嬉しくて。きゅん、と胸が疼いた。

あ、好き。

突然、すごく自然に、そう思った。
私って、泉田くんのこと、好きなんだ。
目から鱗が落ちたような感じで、すとん、とその気持ちは私のなかに落ちてきた。

突然自覚した自分の感情にびっくりしてその場から暫く動けなくなった私のことも、その後真っ赤になって急にあわあわと焦り出した私のことも、泉田くんは訝し気な顔をしながらも、心配してくれた。そんなところにもまたドキドキしてしまって、やっぱり好き、なんて思ってしまうんだから、どうしようもない。
自覚した途端に、わかる。
今に始まったことじゃなくて、私はいつの間にか、しっかりばっちり、泉田くんに恋をしていたみたいだ。

***

おやすみなさい、と送ったメッセージ対して返ってきた、「おやすみ」のたった四文字に、なんでこんなににまにましてしまうのだろう。
純粋に、ただ遊びたくて誘ったはずのお出かけが、まさか今では「これっていわゆるデートでは!?」なんて思うようになっちゃうなんて。いいのかなあ。でも、嬉しいなあ。

私は実際、いつから泉田くんのことが好きだったんだろう。たぶん、結構前から。
まさか、初めて会った時から?
ううん、それはない。好印象は持っていたけれど、そういうものではなかったと思う。
それならいつから、と思っても、元々男の子慣れしていない私はちょっとのことでドキドキしていたから、それがいつ恋のドキドキに変わったかなんて、考えてみたところでわかりようがない。
恋は気付いたら落ちているものと聞いたこともあるけれど、前までは、それが「落ちる」ものならば、その感覚に気付かないわけがないと思っていた。でも、アクターズカフェに行った頃から、泉田くんのことが好きなのかな?と思ってもその答えすら見出せなかった私は、本当に、気付かないうちに恋に落ちていたみたいだ。恋に落ちた後にも、その自覚がいまいち芽生えなかったくらいに、いつの間にか。
自覚したら、また恥ずかしさがぶり返してきて、ぎゅっと目を瞑った。出来るものなら大声で叫びたいけれど、それも叶わないので、枕に顔を埋めて足をバタバタさせながら、「わー!」と声には出さずに息を吐く。すぐに息苦しくなってて顔を上げたけれど。……なにやってるんだろう、私。

「恋……かも」

かも、なんて本当は確信してるくせに白々しい言葉を付け加えた自分を馬鹿みたいだと思う反面、仕方がないんだと言い訳する自分もいる。
照れくさくて仕方がなくて、居心地が悪くてムズムズして、恥ずかしくて穴があったら入りたい。……でも、なんだか嬉しくて舞い上がってもいる。
ううむ、なんというか……恋って、変だ。

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