Sweet | ナノ


▼ 27

苗字から連絡が来て、スマホを見る。
なんてことないやり取りをしていることに、ふとした時に我に返って違和感っつーか気恥ずかしさみたいなのを感じるけど、こうして連絡を取っていること自体は、悪くねーというか、心地良さ?みたいなものを感じる気がする。

「莇、友達から?」
「あ?まぁ」

そんな質問をされるのは珍しいなと思ったら、聞いてもないのに九門が笑いながらその理由を答えてきた。

「すげー嬉しそうな顔してたからさ」
「はぁ!?してねーし!」
「してたって。だから、仲良いヤツからかなって思って」

九門の言葉に裏なんてないことはわかってる。だからこそ、その指摘に動揺したし、否定もしづらい。

「嬉しそうな顔とか全然してるつもりねーけど、……仲が悪いヤツってわけでもない」
「ねぇねぇ、どんなヤツ?」
「あー……変なヤツ」
「変?」

きょとんと目を丸くする九門に、自分でもうまく言葉に出来ないもどかしさを感じながら、思い浮かんだことを口にする。

「弱そうなヤツっていうか、弱くはねぇけど……いや、でも実際には、やっぱ弱ぇんだろうな」
「なにそれ、トンチ?」
「……」
「なんか珍しいなー、莇がはっきりしないのって」
「かもな」

それについては否定のしようがない。自分でも変だって思ってる。

「弱いんだか弱くないんだかわかんないけどさ、困ってる時には助けてあげたいな」
「……そうだな」
「弱くないけどそう思うのって、守りたい、ってことなのかな」
「な――」
「あれ?そういうことじゃなかった?」
「……知らねぇ」

曖昧な返事をしながら、内心、溜息を吐いた。
なんでコイツはこうも躊躇なく言えるんだろう。俺は散々、答えをはっきりさせることを戸惑ってたのに。
時に眩しくすらある九門の素直さは、半ば強制的に俺を真実と向き合わせた。
弱そうという、最初に抱いた苗字への印象。ずっと変わることのなかったそれは、突き詰めれば、単なる俺自身の気持ちだ。

「莇、どうした?」
「なんか飲み物持ってくる」
「臣さんが、冷蔵庫のオレンジジュース自由に飲んでいいって!」

はいはい、と適当な返事をしたところで、苗字から電話が来た。突然のそれに思わず足を止めて――急いで、部屋どころか寮を出る。

『わ、出た!』
「出たもなにも、苗字が電話してきたんだろ」
『電話に出てくれるかはわからなかったから。今、大丈夫?』

遊びたいと言い出した苗字と出かける先は、前にゾンビラン・ナイトをやった遊園地になった。
俺達が行く予定の日に丁度特別なショーがやるのを見つけた苗字は、気付けば通話ボタンを押していたらしい。コイツ、時々考える前に行動するよな。
弾んだ声で話す苗字に相槌を打ちながら、耳の奥で響く自分の鼓動が煩わしくて、僅かに眉を顰めた。聞いたことないくらい近くから、直接耳に響く苗字の声は、高くて、妙に甘く感じて……さっきからバカみたいに鼓動が速い。
あー、だっせぇ。なんだってこんなことになってんだ。
その元凶はというと、相変わらず楽しそうで、電話の向こうでどんな顔をしているか、見なくたってわかる気がした。
別に、嬉しそうなのは、いい。ただ、こっちの身にもなってほしい。なんで俺ばっかりこんなだせぇことになってるんだ。
あー、なんつーか、

(面倒くせー感情)

それが世間でどんな名で呼ばれる感情かとかは、まだ、認めたくない。

prev / next

[ back to top ]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -