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「できたー!」
我ながら、会心の出来!きれいにできた!
達成感とか、誇らしさとか、そういう感情で満たされながら、丁寧にラッピングをする。あっ、やば。今、くしゃってなった。
できればバレンタインチョコを渡したいと思ってはいたものの、まさか、バレンタイン当日に泉田くんにチョコ渡すことになるとは思わなかった。
泉田くん、喜んでくれるかなあ。うう、どうしよう、心配になってきた……。
つい今しがたまで自画自賛していたのに、いざ渡す時のことを考えると、急に不安になってくる。
いけない、いけない。弱気じゃダメだ。味見だってしたし、私にできる精一杯のものは作ったんだから。泉田くん、楽しみにしてるって言ってくれたし。うん、たぶん、大丈夫。
***
「泉田くん」
私の声に振り向いた泉田くんに、手を振って駆け寄る。
「ごめんね、待った?」
「いや、さっき来た」
「今日も寒いねえ」と話しかけると、声に色がついたみたいに白い靄が浮かんで、一瞬で空気に消えてった。
泉田くん、今日はマフラーしてるんだ。なんか、かわいい。私もお気に入りのマフラーをしてるし、手袋だってしてるけど、やっぱり寒い。寒いものは寒い。
「え、っと、わざわざ、ありがとう」
「いや……」
どぎまぎしてしまうのは、いつもと違って待ち合わせをして、しかもその用件がバレンタインチョコレートを渡す、だからだろう。寒いなか風邪をひかせてしまってはいけないし、と早速本題に入る。
「どうぞ、お納めください」
「なんだよその言い方」
呆れた口調の泉田くんに「えへへ」と笑って返す。だって恥ずかしいんだもん。
「ビターチョコを使ったから、甘すぎることはないと思うんだけど」
少しでも美味しいと思ってもらえたら嬉しい。まず、不味いと思われないといいな、ってところからだけど。
どきどき、どきどき。心臓が、今にも飛び出しそう。
こんなに緊張するなんて、おかしいよね。だって告白をするわけでもないし、そういう意味でのチョコでもないのに。
……本当に?
本当に、そういう意味のチョコじゃない、のかな?
突然、そんなことを考えた自分に、戸惑う。
一瞬、袋を持つ手が揺れたけれど、幸い泉田くんには気付れなかったみたいで、普通に受け取ってくれた。元々チョコを渡すって話していたのに、なんだかそれだけでホッとして、嬉しい気持ちになる。
「ありがとな」
照れたような顔で泉田くんに言われて、ドキッと胸が高鳴った。
「うん」
じわじわとこみ上げる嬉しさと、なんだろう、甘い気持ち。
好きっていうのがこういうことなら、恋っていうのがこういうことなら、私は泉田くんが好き、ってことなのかも。
そうなのかなあ?どうかなあ?
答えを求めるように泉田くんを見たら頬が染まっていて、さっきと同じようにまた、かわいい、って思った。泉田くん、かっこいいのに。
赤くなった頬は寒さのせいか、それとも照れているのか、見分けはつかない。
「風邪ひいても困るし、帰るか」
「うん」
「途中まで送る」
「大丈夫だよ!今日はまだ明るいし」
泉田くん、寒いなか沢山歩いたらそれこそ風邪をひいちゃいそうだ。
そう思って言ったのに、心底不満そうな顔をされたので、「うっ」となぜか私が言葉に詰まる。蛇に睨まれた蛙ってこんな気持ちなのかな。多分違うな。
「送るからな」
「……アリガトウゴザイマス」
私が返事をしてからは、泉田くんはさっきの不満顔なんてなかったかのように、いつもの涼しい顔で歩いていく。私が渡したバレンタインチョコが入っている袋を持っているのを見る度、少し、心臓の鼓動が速くなる。
突然北風が吹いて、あまりの寒さに私が声を出して震えたら、泉田くんに笑われた。なぜだ。感じている寒さは同じはずなのに、なんか、不公平だ。
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