「きゃあー!待って、なに、あ、だめ、待っ……あぁぁー!」
「っし、八連勝っと」
既に見慣れてしまったYOU LOSEの画面から目を離して万里くんを睨むと、にんまりと余裕の笑みが返ってきた。くっ、優しくない。手加減ってものを知らないのか。
「名前弱ぇー」
「万里くんが強すぎるんですー!」
唇を尖らせてぶうぶう言う私に、「じゃあ、次はあれやるか」と、別のゲームを指す。
「うーん、まぁ、あれならもうちょっとは出来るかな……」
……。そんなことなかった。さっきより更にこてんぱんにやられた。
そして私はわかったのだ。
「そもそも、万里くんと対戦しようってところから間違ってたんだよ!」
そう、私達がやるべきは競いあうことじゃない。協力することだ!
「万里くん、あれやろう!」
「いいぜ」
意気揚々と、ジャングルのような絵が印刷されているビニールシートをくぐり、万里くんと並んで黒いシートに座る。お金を入れ、手元にあるライフルを模したハンドルを握って、ゲームの設定を行う。
私が選んだのは、二人で敵をやっつけて島を脱出する、サバイバルゲームだ。これなら万里くんが味方だから、私は安心してゲームに挑めるはず。
「名前、これどこのステージまで行ったことある?」
「違う内容のやつで、二つ目か三つ目のステージ辺りまで」
「弱っ」
だって難しいじゃん!敵がいっぱい襲ってくるから目が追い付かないし、全然ハンドルも思うようにコントロール出来ないんだよ!
「だって、」の言い訳と、前もっての「ごめん」を言おうとしたけど、万里くんがおかしそうに笑っているから、開いた口から出たのはそのどちらでもない、「笑いすぎだよ」だった。
「ま、今回は俺がサポートしてやっから。お前が見たことない景色、見せてやるよ」
「わ、万里くんがかっこつけた」
笑っている間に、目の前の画面では二人の人物が島に取り残されるまでの様子を描くプロローグが流れていく。それをのんびり見ていたら、瞬く間に戦闘が始まってしまった。まって、まだ心の準備が出来てない……!
「右、来てるぞ」
「ひいー!」
カガガガガッ
ひたすらボタンを押して、ライフルを撃ち続ける。敵に当たっているのかいないのかもわからないでいる私に、万里くんが横から助言をしてくれる。ついでに私の方に来ている敵も倒してくれた。
「万里くんすごい、目いくつあるの」
「名前と同じ数」
「ええー、五倍くらいあるよ」
「んなあったら怖ぇだろ」
ステージの合間に軽口を叩きつつ、私は順調に体力ゲージを減らしつつ(でもこれまでと比べたら明らかに減りが遅い)、このゲームの話がこんなに進んだのは初めてだな、なんて感心していたら、落ちた。
「ああーっ!ごめん!」
「コンティニューするか?」
「する!」
「よし」
お金を入れて、再び万里くんに並んで冒険を始める。
「お、ボス登場」
「これを倒したらこのステージは終わり?」
「確かな。いくぞ、名前」
「うん!」
二人で息を合わせて攻撃をしないといけないというボスに、気を引き締めてぎゅっとハンドルを握る。
少しでも万里くんの足を引っ張らないように頑張らないと!
「倒せたーっ」
「最初より上達してんじゃね?」
「ほんと?やった!万里先生のお陰だね」
ステージを進んでいくと、登場人物達が怪しげな本を見つけた。この異常な生物たちの暴走の原因がそれに書いてあるようだ。
これって、また更にやばそうな怪物が出るんだろうなあ。そんなことを考えながら、なにげなく、隣の万里くんを見てみた。画面を見つめている暗い青色の瞳に、改めて、かっこいい顔してるなあ、と思う。
「どうした?」
「え?あ、」
不意にその瞳がこちらに向けられたものだから、びっくりした。と、同時にゲームの中から大きな音がして、二人でそちらに目を向ける。新しい敵が出て来たらしい。やっぱり変な怪物だぁ。
これまでと同じようにライフルを撃ち、万里くんと敵を倒す。……けれど、ステージもかなり進んだからか難易度が高くて、私はまた一度落ちてコンティニューをした。それなのに、私のライフは既にもう残りわずかだ。というかあと一撃受けたら死ぬ。
「この次、最終ステージだな」
「そんなところまで行ったの!?」
確かに物語はどんどん展開していて、核心に迫っているところだ。
「名前、落ちんなよ」
「この体力ゲージ見て言う?」
「やべーな」
けらけらと笑った拍子に万里くんの前髪が垂れて、自然とそれに手が伸びた。明るい茶色の髪を一房、彼の耳にかける。
「……、」
「?」
そうしたら、突然黙った万里くんが私を見つめるから、あれ、何かおかしなことをしてしまったかな、と戸惑う。
……うん、わたし、馴れ馴れしかったんじゃない?
「えっと、ごめんね」
慌てて手を引っ込めようとしたら、手首を掴まれて止められた。え?
動くことが出来ずに万里くんを凝視していたら、不意に、ゲームから叫び声と一緒に聞き覚えのある音が聞こえてきた。
「あ、やべ」
気付いたらゲームが始まっていて、なすすべもなく敵に攻撃された私達は、呆気なくゲームオーバーになっていた。
私は本当にゲームオーバーらしく、万里くんだけがコンティニューをして、見事ゲームをクリアしてくれた。こんなエンディングなんだ!
「まさかクリア画面を見れる日が来るとは思わなかった!万里くんありがとう」
「どーいたしまして」
協力してゲームをやったからか、二人の相性とかいうものが出てきて、目が点になった。そういえばこのゲーム、こういうのあったかも。気にしたことなかったけれど。
出て来た87%の数字が高いのか低いのかよくわからなくて、どんな感情を抱ければ良いのかわからなかった。……でも、高くて喜ぶのも、おかしいのかな。
すると、それを見た万里くんが「100%じゃねーのかよ」って不満そうに言ったから、私はなんだか嬉しくなってしまった。
「100%のはずだよねぇ」
「だろ?」
言いながら、恥ずかしいから万里くんの方は見れなかったけれど。照れくさくて笑ってしまう。
万里くんが言うんだから、私達の相性は100%でいいんだろう。
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