私は万里くんに甘やかされているのかもしれない | ナノ
新生秋組第七回公演。万里くんは三田というホストの役で……ものすごく、かっこよかった。
特にあの髪型が素敵で、普段もかっこいいのに、更にかっこよさが増して見えた。普段よりさっぱりしていて、大人っぽいというか、色っぽいというか。ホスト役はチャラかったけど。でもとにかく面白かったし、万里くんがかっこよ過ぎた。そのことを万里くんに伝えて、アザミくんにも伝えてねと言っておいた。
劇団の話は万里くんからよく聞くけれど、会ったことがある人は限られている。アザミくんには一度、偶然万里くんといる時に会ったのだけど、私達を見て顔を真っ赤にしていて、なんだか随分困らせちゃったみたいだった。特になにかをしたつもりはないんだけど、アザミくんの慌てっぷりに申し訳ない気持ちになった。万里くんは気にしなくて大丈夫だと笑っていたけれど。
それにしても、今回の万里くんのヘアメイク、勿論いつも良いけれど、更に良い。何度思い出してもドキドキして、うっとりしちゃう。

……なんて、素直に伝えたせいだろうか。
次のデートで待ち合わせた万里くんの髪型は、三田役の時と同じアレンジがされていた。
思わず、「ひぁ」と変な声が洩れた私の反応を見て、万里くんがおかしそうに笑う。

「予想以上の反応だな」
「だって万里くん、その髪型で来るなんて聞いてない……!」
「そりゃ言ってねーし」

「名前の反応が見たかったからな」と笑う万里くんが、男前で困る。ただでさえかっこいいのに、いつもと雰囲気が違うし、なんかもう、好き。どうしよう、かっこいい。

「万里くん、ちかい……」
「は?いつもこの距離だろ」
「うう……」

だって、万里くんがいつもの万里くんじゃないから。
髪型を変えただけでこんなになるなんて、私自身、自分の過剰な反応にびっくりだ。しかも、私がこんなに困ってるのに、近いって言ったのに、万里くんは更に近付いてきて私の顔を覗き込む。まっすぐに見つめられたら、万里くんの有無を言わせない引力に、見つめ返さざるを得ない。

「そんなに好き?」
「そ、そんなに好き……」

囁くように問いかけられて、ぎゅっと心臓が締め付けられる。ドキドキしながら答えたら、万里くんは私の回答に一瞬、言葉を失ったように黙りこむ。

「……莇に何か買って帰らねーとな」
「え?アザミくん?」
「こっちの話」

「でも後で買い物付き合ってくんねぇ?」と聞かれて、うん、と頷く。「サンキュ」と笑った万里くんに、ずるいと一言言えば、不思議そうな顔をされる。素直に答えるのは癪なので、かっこよすぎてずるいんだよ、と心のなかでだけ答えておいた。

「あ、私も何かアザミくんに買った方がいいのかな?」
「名前が?」
「こんなにかっこいい万里くんを見せてくれてありがとうございます、って」
「なんだそれ」

はっ、と笑った万里くんが私の手を取る。

「名前はいいから、ただ俺に見惚れてりゃいーの」
「それ、自分で言うの?」
「さっきからこれだけ見惚れられてりゃ、言うだろ」
「否定出来ないなぁ」

私が苦笑すると、繋いだままの手を万里くんが持ち上げる。どうしたのかな、と見上げたら、万里くんは私の手の甲に、これみよがしにキスをした。

「!」
「ははっ、今日の名前照れすぎ。すげー可愛い」
「そ、ういうこと、あんま言われると……」
「言われると?」
「ドキドキして、困る」
「じゃーもっと言わなきゃな」

万里くんの弾んだ声に慌てるけれど、そんな私に万里くんは楽しそうに笑うだけだ。それもまたかっこいい、と見惚れてしまう自分に、いい加減慣れてほしいと切実に思う。いや、でも、万里くんがかっこいいのが悪い。

それからも時々髪型を変えて現れる万里くんに、私は結局、いつだって振り回されてばかりだ。万里くんは逆だって言うけど、絶対そんなわけない。

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