暮らす家や環境が変わったからといって、学校やそこでの環境までは変わらない。
いつも通りの友達と、いつも通り会話する。
その、あまりの変わらなさに、すごく安心した。新しい生活は好きだし、楽しいけど、やっぱり緊張してたんだろうな。

「名前」

友達と話していると、その輪の外から名前を呼ばれて、声のした方に顔を向ける。途端に、耳に黄色い声が入ってきた。
周りの人よりも高い背。すらりと伸びた手足。色素の薄い髪と、ハンサムな顔立ち。はるかくんだ。
片手をあげて、挨拶してくれる。反射的に手を振りそうになって…考える。はるかくん、先輩だし、手を振るのって、どうなんだろう。でも、手を振らないのも、感じ悪いかな。
悩んだ結果、ぺこりとお辞儀をして、それから、胸元で控えめに、ほんの少しだけ手を振った。
はるかくんはきちんとそれを見てくれたようで、にこりと笑って、歩いて行った。

「名前ちゃん、どういうこと!?」

一緒にいた友達に詰め寄られる。そりゃあ、そうだよね。

「お父さんの仕事の関係で…」
「親の仕事で関係がある子なんて、他にも沢山いるわ。」
「そうそう。けど、あんな風に天王先輩が話しかけるのなんて、見たことないよ!」
「そうなの?えっと、じゃあ、気まぐれかな?」

これは、まさか同じマンションに住んでますとか、しばしば家に来ますとか、言えそうにないなー…。
友達に対する私の返事を周りの人たちが聞き耳を立てて聞いているのが分かる。「どうして?」「あら、あの子は確か…」なんて、何を話しているのかも、なんとなくは分かる。
無限学園は、有名人とか、有名人の子どもとかが通っているから、この学園の中で有名な人、というのは相当なものになる。はるかくんもみちるちゃんも、その相当な人たち。
私はというと、お父さんの仕事的に、知られている方には入る。けれど、それから「お父さんの娘」として私を見られた時に、大体の人が驚く。「地味じゃない?」とか「オーラがない」とか、言われているのを知ってる。
けど、それはお母さんの教育の賜物だから、いいんだもん。
私のお母さんとお父さんは、駆け落ちした。その何もない状態から、今の地位までのし上がったお父さんは、すごいと思う。一気に沢山のものを得たお父さん。だからこそ、お母さんは、一気にすべてを失うこともあるのだと、私に言った。そして、出来るだけ、「普通」に育てようとしてくれた。地位もお金も、例え何かを失っても、生きていけるように。一番、多くの人と同じ気持ちを共有できるように。多くの人に寄り添えるように。
そんなお母さんは、体が弱くて…今はもう、いない。
でも、お母さんの教えか、元々そう輝くものがないからか、私は見事に「普通」な子に育っているらしい。だから、この学園では、ある意味異質ともいえるのかもしれない。
だからといって、悲観してるわけじゃないし、学校生活も、楽しい。キラキラな人たちに、人並みの憧れくらいは、抱くけど。

「あら、名前」

また別の場所から呼ばれ、振り向くと、みちるちゃんがいた。相変わらずの綺麗な立ち姿で、手にバイオリンケースを持っている。緩やかにウェーブした髪が風に靡いて、なんだかとても大人っぽい。

「何をしているの?」
「この後、移動教室なんです」
「そう。次の授業もがんばってね。居眠りしちゃ、だめよ?」
「し、しません!」

くすりと笑って、みちるちゃんが「じゃあ、また」と去っていく。それを周りの人が見ていて…私のことも、見ているわけで。

「まさか、海王先輩も、お父様の仕事の関係?」
「う、うん」
「有り得ないわ…」

ぽかん、とする友達を見て、あはは、と乾いた笑みを浮かべる。
「暮らす家や環境が変わったからといって、学校やそこでの環境までは変わらない?」
どうやら、そういうわけにも、いかないみたい。
変わるもの、変わらないもの

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