描いたシナリオは猫が食べた


『アナタも明日には両想い!絶対に成功する恋愛テク50』という信憑性に甚だ疑問のあるタイトルの本を開いて、なまえと真澄は暗い顔をしていた。

「こんなこと、出来るわけない……」
「俺はやった……つらかった……」
「えっ、すごい!真澄さん、やっぱり尊敬します!……やってみてどうでした?」

押してダメなら引いてみろ。
散々使い古されたテクニックを前に、なまえが真剣な顔で真澄を見る。

「監督のことが好きって、改めてわかった」
「わあ、素敵!愛の再確認!……で、実際されてみて、いづみさんはどう思いました!?」
「いや、どうっていうか……そもそもこういう話を本人の前でするのはどうかと思う」

苦笑いをして、いづみはラッシーを一口飲んだ。最初の五分、真澄による監督の魅力語りを聞かされたダメージがまだ残っているのか、若干目が死んでいる気がしなくもない。

疚しいことなど一切ないとはいえ、想い人以外の異性と二人きりで会うなんて誠実ではないことはするべきではないと、なまえと真澄の意見は一致した。そのため、絶対恋愛成就同盟の会議が二人きりで開催されることはない。今日は、普段自ら喜んで参加してくれる椋や一成は都合がつかず、声をかければ参加してくれる太一や東、おやつを持ってきてくれる臣もいなかった。
そこで白羽の矢が立ったのはいづみで、今日の作戦会議の会場がいづみ一押しのカレー屋だと言うから、つい、ホイホイ着いてきてしまったのだ。だって、「いづみさんオススメのカレー屋さん、ずっと行ってみたかったんです!」なんて笑顔でなまえが言うから、それならお姉さんが連れて行ってあげようと言わざるを得ないだろう。
寮に住んでいないなまえはカレー地獄を経験していないため、カレーと聞いても嫌な反応は一つもしない。いづみとしては、今度ぜひ、いづみ特製のカレーを振る舞いたいと思っている。そうしたら否応なしにその日の寮の夕飯もカレーになるのだが……今この場にはいづみの提案に心から喜んで賛成する二人しかいないため、いづみの提案は満場一致で可決した。

「なまえの姉みたいに接するアンタもかわいい……好き」
「! じゃあ、いづみさんに妹みたいに接する私も莇に可愛いって思ってもらえるかな!?」
「うん、それは違うかな」

冷静にいづみが答えれば、「あれー?」ととぼけてからなまえが笑う。

「でも私、いづみさんと姉妹みたいって思ってもらえるだけで嬉しいや」
「なまえちゃん……!」

なまえの言葉に感激するいづみ……の可愛さに感激する真澄。
カレー屋での謎の会合は、なんやかんやありつつ、平和的に幕を閉じた。

***

「それでね、引いてみるって一体どうしたらいいと思う?」
「それを俺に相談すんな」

ばっさりと切り捨てた莇に、「だって莇のことだよ!?」となまえが食らいつく。

「だからだろ!」

幼馴染二人の会話をMANKAIカンパニーの面々は大分慣れた様子で微笑ましく見守っていた。
押してダメなら引いてみろ。
真澄に倣ってそれを実践しようにも、どうしたらいいのかわからなかったなまえは、とりあえず莇本人に相談することにしたらしい。

「だって、ずっと莇と話さないのとか、寂しいから無理だもん……」

真澄から聞いたことをなまえが出来るとは思わなかった。それに、いづみと同じ寮で生活している真澄と、そうではないなまえとではきっとアプローチの仕方や結果も違うはずだ。
しょんぼりとなまえが溢せば、莇がなまえを一瞥する。

「……なよ」
「え?なに?」
「んなこと、すんなよ」
「!」

莇が言ったのは、ずっと話さなくなることについてなのだが、どうやらなまえは「押してダメなら引いてみろ」作戦そのものの事と受け取ったらしい。似たようなものだから、結局はそれでいいのかもしれないが。
感激した様子で、キラキラと表情を輝かせたなまえは、莇に飛びつかんばかりの勢いで満面の笑みをみせた。

「やっぱり莇、だいすき!」
「は、はぁ!?だから、お前はそういうことを簡単に言うな!」

顔を真っ赤にした莇と、しあわせそうににこにこ笑うなまえ。
押してダメなら引いてみろ。やってないけど、やろうとしただけで莇のことが大好きだって改めて思いました。……というのが、次の絶対恋愛成就同盟の作戦会議でなまえが意気揚々と報告した内容である。

なまえの報告の後には椋のプレゼンも行われた。テーマは、真澄となまえが同盟を組んでいることについて。
既に複数回、好きな人にはっきりと告白をしている。受け入れてもらえてはいない。けれど、相手とは良好な関係を続けることが出来ている。
そんな状態の片想いをしている仲間がいるなんて、普通はそうない。
数々の少女漫画を用いての椋のプレゼンに、仲間の貴重さに気付いたなまえと真澄の絆は50上がったのだった――

「いや、何の数字だよ」

絶対恋愛成就同盟の様子を偶然見ていた至による解説に、すかさず綴のツッコミが入る。
MANKAIカンパニーは、今日もいつも通り平和なようだ。

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