第七話「動き出した二人」


「ピノコちゃん…黒男さん…」

すぐに引っ越し先が決まるわけではなく

未来はマスターの家で夜を過ごした。

空き室にピノコと泊まっていたが

ピノコは養女となり、未来一人だけだ。

「もう会えないのかな?」

未来は涙を流した。

ついこの間までブラックジャックとピノコと

過ごしていたのに

二人がとても遠くに感じられる。

思い出の家も吹き飛んでしまった。

それが悲しくて未来は一晩中泣いた。


翌日、マスターにお礼を言ってから荷造りをしていた

未来の携帯電話に

ピノコが電話をしてきた。

ピノコはブラックジャックにお願いをして

買ってもらった携帯電話を

まだ持っていたようだ。

「もしもし?」

『未来?

やっぱりちぇんちぇーは生きているのよさ』

「え?」

自信に満ちたピノコの声に未来は驚いた。

『この目で見たんだもん!

今すぐトムのお店の前に来て!』

「わかった!」

未来は電話を切ると走り出した。

(黒男さんが生きてる?)

走りながら未来の鼓動は早かった。


「これを手掛かりに

ちぇんちぇーの場所に案内できゆ?」

そう言ってピノコはラルゴに

ブラックジャックの遺品とされた万年筆の

においをかがせた。

「わん!」

できると言いそうなラルゴの返事に

ピノコと未来は安堵した。

「偉い!」

「頼んだわよ、ラルゴ!」

ラルゴはピノコを自分に乗せて走り出し

未来もその後を追った。

「18歳の幼女と妻が動き始めました」

それを陰で見ていた男が

そう報告していたのは

二人は気付かなかった。

ただブラックジャックの無事を信じて

走り続けた。


to be continued