第六話「悲しみの二人」


「18歳の幼女とブラックジャックの妻には

目を離すな。

ブラックジャックがもし生きていたら

最初に接触するのは、その二人だ」

暗い部屋に男が携帯電話を持って

指示する声だけが響いた。


跡形もなく消えてしまったブラックジャック邸の前。

焼け焦げた家の燃えカスが

ほんの少し残っただけで

家は全焼してしまった。

その焼け跡の近くに

パトカーや救急車が何台も止まっている。

「未来…」

「大丈夫よ、ピノコちゃん。

先生が…死ぬなんて…」

泣きじゃくるピノコを抱きしめて

未来も泣きたかった。

でも自分がしっかりしないと

ピノコがもっと泣くだろうと

必死に未来は涙をこえた。

「これは悪い夢なんだ…

ちぇんちぇーはきっと生きているんだ!」

ピノコはそう言いながら、嗚咽して泣いた。

未来もそれを信じたかったが

目の前にある現実はあまりにも残酷だった。


五日後。

爆発の日からずっとピノコと未来は

自宅跡を掘っていた。

自分の身長と同じくらいの大きなしゃべるを

一生懸命ピノコは動かした。

「ちぇんちぇーは生きてる!」

「黒男さんは生きてる!」

そう言ってただひたすら

二人は掘り続けることしか出来なかった。

やがて時刻は夕方になり

夕日が二人を赤く照らした。

「そろそろ疲れたでしょ?

今日はトムに帰ろうよ」

和登の心配そうな声に

「そうね…ピノコちゃん行きましょう?」

未来はうなずいた。

心身ともに疲れた二人はトムまで和登と無言で歩いた。


しかしトムのマスターは残酷なことを言った。

「ピノコちゃんを養女に?」

「やだー!絶対やだ!」

未来は驚きピノコは怒ってマスターに

近くにあった白いお皿を何度も投げた。

「ピノコ!養女なんか行かないよ!」

「ここから行く場所は

お金持ちの立派な病院の院長先生なんだよ。

未来さんも元の病院に戻ればいいし…」

投げつけられた皿をよけつつ

マスターはそう説得をした。

「わーん!」

遂にピノコは泣き出してしまった。

未来ともブラックジャックとも

離れたくなかった。

そんなピノコにマスターは

こぶしを握ってつらそうな顔で口を開いた。

「わかった…ハッキリ言おう。

お前さん達がここにいると迷惑なんだ。

ブラックジャック先生は死んだ。

あきらめるんだ」

マスターは淡々とそう言い

「迷惑…」

「ピノコはここにいない方がいいんだね」

ピノコも未来も従うしかなかった。

数日前までここでブラックジャックを待っていた時とは

状況が違いすぎた。


数時間後

ピノコを迎えるために佐伯院長と奥さんがやって来た。

佐伯院長の車にピノコは振り返らずに乗った。

振り返って未来を見たら

泣いてしまうからだ。

「さようなら、ピノコちゃん」

「う…」

「マスターはわざとあんなことを言ったんですよね」

ピノコを見送る久美子もマスターも未来も

涙を流した。


to be continued