第三話「タルタロス襲撃」


ルークとティアは

タルタロスの一室まで連行された。

「超振動の発生源があなた方なら

不正に国境を越え

侵入してきたことになりますね」

ジェイドはいつもの様子で

笑みすら浮かべていた。

「へっ、ねちねちイヤミな奴だな」

ルークはふんぞり返った。

「へへ〜イヤミだって!大佐!」

「傷つきましたねぇ」

「アニスにジェイド!

おどけている場合じゃないでしょ」

「すみません、未来」

ジェイドが微笑んだが

(絶対謝ってないわ)

と未来は思った。

「それはさておきルーク

あなたのフルネームは?」

「ルーク・フォン・ファブレ。

おまえらが誘拐に失敗したルーク様だよ」

ルークは胸をそらしたまま言った。

「じゃあ、キムラスカ王室と姻戚関係にある

あのファブレ公爵のご子息ってこと?」

未来が驚き

「公爵?素敵〜」

アニスはゆらゆらと揺れた。

「何故マルクト帝国へ?

それに誘拐などと…穏やかではありませんね」

「マルクトが誘拐なんて…」

「誘拐のことはともかく

今回の件は私の第七音素とルークの第七音素が

超振動を引き起こしただけです。

ファブレ公爵家による

マルクトへの敵対行動ではありません」

ジェイドと未来の様子に、ティアが慌てた。

「大佐に未来。

ティアの言う通りでしょう。

彼に敵意は感じません」

今まで様子を見ていたイオン様が言った。

「ここはむしろ

協力をお願いいたしませんか?」

「それは名案ですね」

イオン様の提案を聞いて

未来はルーク達に近づいた。

「そうなると、これは外していいでしょ?

ジェイド」

「ま、いいでしょう」

手錠を指さした未来にジェイドは苦笑した。

「ごめんなさい、痛くなかった?」

手錠を外しながら、未来は聞いた。

「痛かったに決まっているだろ?」

「ルーク!嘘はよくないわ!

大丈夫です、未来中佐」

「私のことは、呼び捨てで構わないから」

未来とティアは笑いあった。

「そろそろ、いいですか?

我々はマルクト帝国皇帝

ピオニー九世陛下の勅命によって

キムラスカ王国へ向かっています」

「まさか、宣戦布告?」

「宣戦布告?戦争が始まるのか?」

ルークが慌てた。

「逆ですよ、ルーク様!

戦争を止めるためです」

慌てた二人にアニスが説明し

「アニス、不用意にしゃべってはいけませんね」

ジェイドは完全に面白がっていた。

「これからあなた方を解放します。

軍事機密に関わる場所以外は

全て立ち入りを許可しましょう」

「ジェイド、それは…!」

驚いた未来にジェイドは

「黙っていろ」

と目配せをした。

「まず、私たちを知ってください」

「協力して欲しいんなら

詳しい話をしてくれればいいだろ」

回りくどいことをするジェイドを

ルークは睨み付けた。

「説明してなお、ご協力いただけない場合

あなた方を軟禁しなければなりません」

「なに!」

ルークが今度は慌てた。

「仕方がないの、ことは国家機密だから」

「未来の言う通りです。

その前に決心を促しているんですよ。

どうか、よろしくお願いします」

そう言ってジェイドは部屋を出ていき

イオン様と未来も後に続いた。


「彼らは協力してくれると思っているのでしょ?

なぜ、船内を開放したの?」

ジェイドと並んで歩きながら未来は聞いた。

「念には念をですよ、未来。

国家機密と言ったのはあなたですし」

「それは、そうだけれど…」

船室を出て、未来とジェイドはそう話した。

そして、しばらくするとルーク達が出てきた。

ティアとアニスもいる。

「やあ、両手に花ですね、ルーク」

「本当に」

ジェイドと未来がからかった。

「やーん、大佐と未来ったら」

「わ、私は…そんな…」

アニスははしゃぎ、ティアは照れた。

「おめーじゃねーよ。アニスとミュウだろ」

「ご主人様、違うですの。

ミュウは男ですの」

「おまえ、オスかよ!?」

ミュウの言葉に、ルークが慌てた。

「でも、かわいいわね。抱っこしていい?」

「照れるですの〜」

未来がミュウを抱き

ティアはなぜか羨ましそうに見ていた。

「ところで先ほどの誘拐とは何なのですか?」

「私も気になるわ」

ミュウを抱っこしたまま未来は

眉間にしわをよせた。

「知るかよ」

「少なくとも私は知らないの」

「私もです。先帝時代のことでしょうか」

未来たちが言うと、ルークは鼻で笑った。

「俺はそのせいで

ガキの頃の記憶がねーんだから」

するとジェイドが黙って

何かを考えている様子だった。

「ジェイド?どうしたの?」

「いえ…なんでもありません」

ジェイドは首を横に振った。


ルークが協力を了承し

ジェイド達は近いうちに戦争が起こるだろう

だからピオニー九世陛下が親書を託し

イオン様はモースの軟禁から逃れたため

ヴァンがイオン様を捜索していることを

説明した。

「その為にルークの力、いえ地位が必要です」

「おいおい、おっさん。

人にものを頼むときは

頭下げるのが礼儀じゃねーの?」

「やれやれ」

ルークの傲慢にジェイドはあきれたが

ルークの前で跪いた。

「ジェイド?!」

「どうか、お力をお貸しください。

ルーク様」

頭だけを見上げて、ジェイドは頼んだ。

「あんたプライドねぇなあ」

「あいにくと

この程度のことに腹を立てるような

安っぽいプライドは

持ち合わせていないものですから」

立ち上がりジェイドは笑った。

「それなら私も…」

「やめなさい。未来は必要ありませんよ」

頭を下げようとした未来の腕をつかみ

ジェイドは止めた。

「ち、わかったよ。

叔父上に取りなせばいいんだな」

「ありがとうございます、ルーク様」

「呼び捨てでいいよ。キモイな」

なおも偉そうにルークは嫌がった、その時だった。

警告音が艦内に響いた。

「敵襲?」

「艦橋(ブリッジ)!どうした?」

ジェイドが廊下に出て、連絡の管を開いた。

『グリヒィンの大集団です。

ライガが落下…うわあ!』

管から艦長の悲鳴が聞こえた。

「ライガって

チーグルんとこで倒したあの魔物だよな。

冗談じゃねぇっ!

俺は降りるからな!」

そう言ってルークは逃げ出そうとした。

「待って!今外に出たら危険よ!」

「その通りだ」

大きな鎌を持った大柄の男が

ルークを跳ね飛ばした。

「雷雲よ!我が刃となりて敵を貫け!

サンダーブレード!!」

ジェイドが詠唱したが、男は避けて無傷だった。

「…さすがだな。

だがここから先は

大人しくしてもらおうか。

ジェイド・カーティス大佐に未来中佐。

いや、死霊使いジェイドと、堕天使未来」

「死霊使いと堕天使?!あなたがたが!?」

驚いたティアの横を通り

ジェイドと未来は男に近づいた。

「これはこれは。

私達も、ずいぶんと有名になったものですね」

「戦乱のたびに骸を漁るジェイド

そして神をも超える力を持つ未来の噂

世界に轟いてるようだな」

「あなたほどではありませんよ。

神託の盾騎士団六神将『黒獅子ラルゴ』」

ジェイドとラルゴはお互いに名を呼んだ。

「いずれ手合わせしたいと思っていたが

残念ながら

今はイオン様を貰い受けるのが先だ」

「イオン様を渡す訳にはいきませんね」

「おっと!

この坊主の首、飛ばされなかったら動くなよ」

ラルゴの鎌を首にあてられたルークが震えていた。

「お前らを自由にすると、色々と面倒なのでな」

攻撃をためらったジェイドと未来を睨んで

ラルゴはなにかを取り出した。

「あなた一人で、私たち二人を殺せるとでも?」

いつでも攻撃できる態勢をとり

未来が挑発した。

「おまえの譜術を封じればな。

未来、お前にくれてやる」

ラルゴは先ほど取り出したものを

未来に投げた。

「未来!危ない!!」

未来はジェイドに突き放されて助かったが

ジェイド自身が攻撃を受けてしまった。

「まさか封印術?!」

「ジェイド?!」

ジェイドは苦しそうにしゃがんだ。

「導師の譜術を封じるために持ってきたが

こんなところで使う羽目になるとはな」

鎌をルークの首から外し

ラルゴは誇り高そうだった。

「ぐぅ…っ」

攻撃はやんだが

ジェイドは苦しそうにうめいた。

しかし次の瞬間

ラルゴがジェイドに鎌を向けて

ジェイドも槍を取り出し二人は交差する。

「ミュウ!音素灯に第五音素を!早く!」

ミュウが炎を天井に吐くと

音素灯の光が強くなった。

まぶしくてラルゴの動きが鈍る。

「今です!アニス!イオン様を!」

「はいっ!」

アニスが走り出す。

「落ち合う場所はわかるわね」

「大丈夫!」

すれ違いさま、未来とアニスは確認した。

「行かせるか!」

ラルゴがアニスを追おうとしたが

ティアの譜歌が動きを鈍らせる。

そこを狙い、ジェイドの槍がラルゴを貫いた。

「イオン様はアニスに任せて

我々は艦橋を奪還しましょう」

「ジェイドは封印術で

譜術を封じられたんじゃ…

なぜ、私をかばったの?!」

未来は信じられない気持だった。

「軍人とは言え

男性が女性を守るのは当然です。

それに…仲間ですから。

それより封印術を完全に解くには

数か月以上かかるでしょう。

でも貴女の譜術があれば

タルタロス奪還も可能です」

戦いの最中なのに

ジェイドが未来を安心させるように微笑んだ。

「わかったわ。行きましょう、ルーク」

「あ、ああ…」

怯え切ったルークは力なく立ち上がった。


to be continued

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