第二話「聖獣の森」


コンコンコン

エンゲーブの近くに停泊している

タルタロスの一室…

自分の部屋として準備された船室で

未来は目覚め、身支度をしている時に

ドアの向こうからノックが聞こえた。

「はい」

未来はドアを開けると

「おはようございます、未来」

「ジェイド?どうしたの?」

そこにいたのは

いつもの何を考えているのか分からない笑顔の

ジェイドだった。

「お願いがあってきました。

私と一緒にチーグルの森に

行っていただけませんか?」

「なぜ、チーグルの森へ?」

「実は、正体不明の超振動を起こしたのは

ルークとティアだったと判明したんです」

「あの二人が?!」

未来は驚いた。

あの礼儀正しいティアならまだしも

ルークも第七譜術士だったとは、と思った。

「ええ、そうです。

その二人を捕らえようと思うのですが

二人はチーグルの森へ行ったそうなんです」

「それで私に

身柄の確保を手伝ってほしい

ということですね」

「さすがは未来、その通りです。

そしてもう一つ

森へ行くのに目的があります」

ジェイドは、またにやりと笑った。

「もう一つ?」

未来は疑問に思った。

ただの森に行く理由が、二つもあるのだろうか。

「親書が届き、報告しようと

イオン様の部屋へ行きました。

しかし不在で

『チーグルの森に行きます』

と書いた手紙が、置いてあったのです」

ジェイドは置手紙を未来に見せた。

「イオン様まで森へ行くとは…」

手紙を読みながら、未来はつぶやいた。

「三人とも

チーグルが食料を盗んでいた真相が

知りたいのでしょう」

「わかったわ。ところでアニスは?

イオン様の捜索なら

彼女も連れて行った方が…」

「アニスなら先に

チーグルの森へ行ってもらいました。

急いで向かえば、追いつくでしょう」

メガネをかけなおして

ジェイドは最後まで説明した。


エンゲーブを出て

すぐに魔物が二人を襲ってきた。

「共闘するのは、初めてですね」

「そうね」

ジェイドは腕から槍を

未来は懐から短剣を取り出した。

「私が詠唱時間を確保しましょうか?」

「いいえ、大丈夫」

未来は自信に満ちた顔で笑った。

まるで、見ておけとでも言うかのように。

未来は短剣をふるいながら

足元に譜陣を展開する。

ワンピースの裾が揺れた。

「炸裂する力よ!エナジーブラスト!!」

未来はすぐに詠唱を終えた。

そしてそこにいた魔物を

いとも簡単に消し去った。

「詠唱をしながら短剣で戦えるのですね」

「そういうこと」

未来は短剣をしまいながら言った。

「噂には聞いていましたが、本当だったとは…」

ジェイドは興味深そうに未来を見た。

「行きましょう、ルーク達が森から出る前に」

未来は長い髪をなびかせて

そう言って歩き始めた。


アニスと合流した二人は

森の一番奥までたどり着いた。

そこにルーク、ティア、そしてイオン様がいた。

ルークとティアは

大きなライガを相手に苦戦している様子だ。

「まずいわ…こちらの攻撃が

ほとんど効いていない」

「じょ、冗談じゃねぇぞ!なんとかしろっ!」

「なんとかして差し上げましょう」

それまで様子を見ていたジェイドが

ルーク達に近づいた。

「誰っ!?」

「詮索は後にしてください。

私が譜術で仕留めます。

あなた方は

私の詠唱時間を確保してください!」

「ジェイド、私も戦うわ」

今にも詠唱を始めようとしたジェイドに

未来はそう言った。

「いいえ、私一人で十分です。

あなたはイオン様を守っていてください」

「わかった」

頷いた未来は、イオン様の前に立った。

「イオン様、お怪我はありませんか?」

チーグルだろうか?

小さな獣を抱きしめているイオン様を見て

未来は心配した。

「大丈夫です。迷惑をかけて、すみません」

「私は導師の護衛も兼ねていますから

謝る必要はございません」

そう二人が言っている間に

「荒れ狂う流れよ!スプラッシュ!!」

ジェイドが譜術を発生させ、ライガは倒された。


「アニス、ちょっといいですか?」

「はーい、大佐。お呼びですか?」

戦闘が終わり、ジェイドはそう声をかけた。

するとジェイドに

隅で待機するように言われていたアニスが

未来達に向かって走ってきた。

ジェイドはアニスに

タルタロスを森の前まで移動させ

兵をよこしてほしいと言った。

「なら、私が手配するわ」

「え?いいの?未来」

アニスは嬉しそうに未来に聞いた。

「もちろん。あなたは導師護衛役でしょう?

ならば、優先すべきことがあるはず…」

未来は遠巻きにイオン様を守れと言った。

「お願いしますよ、未来」

「ええ」

ジェイドに改めて頼まれて

未来は森を出て行った。


ルークたちはチーグルの長老に報告し

森を出ようとした。

「おっ未来じゃないか?」

そして森の出口で未来が立っているのを

ルークが見つけた。

「待ってたわ」

そう未来が言うと

マルクト兵が二人ルークへ向かって歩いてきた。

「ご苦労様でした、未来。タルタロスは?」

「森の前に来ている。

ジェイドが大急ぎで

って言うから大変だったのよ」

「おい、どういうことだ」

異変に気がついたのか、ルークが慌てた。

「そこの二人を捕らえなさい」

「正体不明の第七音素を放出していたのは

彼らです」

未来が命令し

ジェイドが厳しい声で説明した。

「ジェイド!未来!

二人に乱暴なことは…」

イオン様が不安そうに未来達を見た。

「ご安心下さい。

何も殺そうという訳ではありませんから」

「二人が暴れなければの話だけど、ね」

ジェイドと未来がニヤリと笑った。

それを聞いてルークとティアは大人しくなった。

「いい子ですねー。連行せよ」

ジェイドがそう言うと

ルーク達は手錠をかけられた。


to be continued

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