第一話「泥棒騒動」


「私は導師守護役のアニス・タトリンと申します。

よろしくお願いします、未来中佐」

「マルクト帝国軍第一師団所属

未来中佐です。

私のことは未来でいいわ。

よろしくね」

「了解!未来!」

出発したタルタロスの中で

アニスと挨拶をした。

今回は極秘の任務だったが

イオン様の希望で

導師守護役のアニスも同行することになった。

「やはりアニスがいると、にぎやかですねー」

すでにアニスとは顔見知りのジェイドが言った。

「それで、それで!

大佐と未来ってどういう関係なんですか?」

「ど、どうって…

ただ一緒に任務を受けているだけよ」

突然の質問に、未来は慌てた。

その後も、四人は他愛のない話が絶えなかった。


タルタロスは順調に

食材の町エンゲーブに到着した。

そこで盗賊団「漆黒の翼」を乗せた馬車を

タルタロスで追いかけたが

馬車は火薬でローテルロー橋を破壊し

逃げてしまった。

「やれやれ、逃がしてしまいましたね」

「まさか橋を壊して逃げるとは」

ジェイドは苦笑し、未来も困った顔をした。

「師団長、大変です!」

その時、タルタロスを操作していた兵士の一人が

叫んだ。

「どうしたのだ?」

「タタル渓谷付近にて

正体不明の超振動が起きた形跡がありました」

「超振動が?!なぜ渓谷などで?」

未来は気になったが

ジェイドは笑みすら浮かべていた。

「そのまま監視を続けろ!

場合によっては

超振動を起こした第七譜術士を捕らえる」

「了解!」

そのままタルタロスはエンゲーブに戻り

親書が届くのを待つことにした。


「まあまあ。

こんなところに来ていただき

ありがとうございます」

ローズ夫人はニコニコと笑いながら

ジェイドと未来にコーヒーを出した。

「漆黒の翼も追いかけていただいて…」

「けれど、結局逃がしてしまいました」

「橋も破壊されたのは困りましたしね」

未来とジェイドは苦笑した。

するとローズ夫人の屋敷のドアが

勢いよく開いた。

「ローズさん、大変だ!」

「こら!今、軍のお偉いさん達が来ているんだ。

大人しくおしよ!」

慌てて入ってきた男達にローズ夫人は注意した。

「大人しくなんてしてられねぇ!

食料泥棒を捕まえたんだ!」

「違うって言ってるだろーが!」

未来が見ると、この村の住人と思われる男が

赤い髪の少年を突き出すところだった。

「とにかく、みんな落ち着いとくれ」

「そうですよ、皆さん」

今までコーヒーを黙って飲んでいたジェイドが

赤い髪の少年に近づいた。

未来もそれに続く。

「大佐に中佐…」

「なんだよ、あんたら」

不審そうに赤い髪の少年は

ジェイドと未来を見た。

「私はマルクト帝国軍第三師団所属

ジェイド・カーティス大佐です」

「同じくマルクト帝国軍第一師団所属

未来中佐です」

ジェイドと未来が名乗った。

「あなたは?」

「ルークだ。ルーク・フォン…」

「ルーク!」

慌てて屋敷に飛び込んできた女性が

ルークが名乗るのを止めた。

そしてルークと名乗った少年の口をふさいで

なにやら言ったようだ。

「どうかしましたか?」

ジェイドは気にせず聞いた。

「失礼しました、大佐に中佐。

彼はルーク、私はティア」

ルークの代わりに女性が名乗った。

「ケゼドニアへ行く途中でしたが

辻馬車を間違えてここまできました」

「おや」

ティアが説明すると、ジェイドがおどけて

「じゃあ、あなたも

漆黒の翼と疑われている彼の仲間なの?」

未来が聞いた。

「私たちは漆黒の翼ではありません。

本物の漆黒の翼は、マルクト軍が

ローテルロー橋の向こうへ

追いつめたはずですが」

「ああ…なるほど。

先ほどの辻馬車に

あなたたちも乗っていたんですね」

「馬車に乗っていて

巻きこまれて怪我をしなかった?」

「大丈夫です」

未来が心配して聞くと、ティアが頷いた。

「どういうことですか、大佐に中佐」

たまりかけたローズ夫人が聞いた。

「いえ。ティアさんがおっしゃった通り

漆黒の翼らしき盗賊は

キムラスカ王国の方へ逃走しました」

「彼らは漆黒の翼ではないと思います。

私とジェイドが保証します」

ジェイドと未来は断言した。

「それに、ただの食料泥棒でもなさそうですね」

すると新たな声が聞こえた。

未来たちと行動していた導師イオンだった。

「少し気になったので

食糧庫を調べさせて頂きました。

部屋の隅に

こんなものが落ちていましたよ」

そう言ってイオン様は

ローズ夫人になにかを渡した。

「こいつは…聖獣チーグルの抜け毛だね」

ローズ夫人は少し驚いた様子だった。

「ええ。

恐らくチーグルが

食糧庫を荒らしたのでしょう」

「ほら見ろ!

だから泥棒じゃねえっつたんだよ!」

ルークが連れてこられた村人に非難した。

「すまない」

「疑って悪かった」

村人たちは謝り

「坊やたちも、それで許してくれるかい?」

ローズ夫人は笑みを浮かべた。

「別にどうでもいいさ」

ルークは気怠そうに言った。

「そいつはよかった。

さて、あたしは大佐と中佐と話がある。

今日のところは、みんな帰っとくれ」

ルークたちは続々と出て行った。


「ごめんなさいね、騒がしくて。

それで、親書の話でしたね…」

ローズ夫人は、急に真面目な顔になった。


夜遅く

エンゲーブにただ一つある宿屋にて…

「あのジェイドと未来ってやつ

いけすかねえ奴らだったな」

「そうかしら?

一般人に話しかける態度としては

優しかったと思うわ。

それと未来中佐は女性よ!

さらに失礼だわ!」

ティアは少し怒って注意したが

すぐに何かを考え始めた。

「…それにしても

マルクト軍のジェイド大佐に未来中佐…

どこかで聞いたことがある気がするわ」

宿屋でルークとティアが

そんな会話をしていたことは

当然未来たちは知らなかった。


to be continued

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