第七話「荒れ果てた城」


旅券をルークがヴァンからもらい

問題なく国境を越えることができた。

「キムラスカへ来たのは久々ですねぇ」

ジェイドは感慨深そうに言った。

「私も…こんな任務じゃないと来ないわね」

未来が頷いた。

「カイツールの軍港に向かうんですよね!

行きましょう、ルーク様」

アニスは笑顔でルークの手を引いた。


しかし、たどり着いたカイツールの軍港は

ざわついていた。

アリエッタの仲間の魔物が船を破壊し

それを直せる整備士も

魔物は連れて行ってしまった。

アリエッタが言うには

アッシュが頼んだらしい。

整備士を返してほしければ

「コーラル城」

まで来るようにアリエッタは要求し

仲間のグリフィンに掴まって去って行った。


コーラル城とはファブレ公爵の別荘で

今は放棄されているらしい。

そして誘拐されたルークが発見されたのも

コーラル城だとガイは言う。

ヴァンは危険だから行くなと言うが

他の整備士の頼みもあり

コーラル城に行くことが決まった。

「そうよね、人質は助けたほうがいいわ」

「なんだよ、冷たい軍人さんのくせに」

ルークは未来をにらんだ。

どうやらフーブラス川でのことを

根に持っているらしい。

「終わったようですね。

それでは行きましょうか」

ジェイドは、おどけた様子で

軍港の外へ行こうとした。

「え?

ジェイドはコーラル城へ行くの

反対じゃないの?」

未来は意外そうにジェイドを見た。

「いいえ、別に。

私はどちらでもいいんです」

ジェイドは、やれやれと両手を広げた。


たどり着いたコーラル城は荒れ果てていた。

「ここが俺の発見された場所?

ボロボロじゃん。なんか出そうだぜ」

「ルーク、そういうのはやめて!」

未来は慌てた。

「おやおや、未来。怖いのですか?」

ジェイドはなぜか嬉しそうだった。

「怖くないわ。それより行きましょう」

しかし歩き始めた未来は

完全に怖がっていた。


ぎぃっと音がして、城の扉が開いた。

「なに?!!」

そこには怪しい影があり、未来は叫んだ。

「やっぱり、怖いのですねぇ」

ジェイドは今度も嬉しそうだった。

「未来…だ、大丈夫よ!魔物よ!」

ティアは未来の肩に手を置いたが

ティアの声にも、怯えが感じられた。


城の中を進んで行くと

大きな譜業が見つかった。

「これは…!」

ジェイドは譜業を見て、動揺を隠せなかった。

「ジェイド、何か知ってるの?」

「……いえ、確信が持てないと…」

未来が心配して聞いたが

ジェイドは首を横に振る。

「いや、確信できたとしても…」

ジェイドの最後の一言は小さく

未来にしか聞こえなかった。

(一体、何が…)

未来は、ジェイドの動揺の理由を

何故かすごく知りたかった。

「珍しいな。あんたがうろたえるなんて」

ガイはジェイドに一歩近づいた。

「俺も気になってることがあるんだ。

もしあんたが気にしていることが

ルークの誘拐と関係あるなら…」

「ガイ!

ジェイドを…マルクト軍を疑ってるの?」

さらにジェイドに詰め寄ったガイを

未来は止めようとした。

「いや、そんなつもりじゃ…」

「きゃーーーーーー」

ガイが言いかけた時

ねずみに驚いたアニスが

ガイの背中にしがみついた。

ガイは一瞬硬直し

そのまま震えてうずくまってしまった。

アニスは尻餅をついたままで

ガイもまだ震えが止まらなかった。

「今の驚き方は、尋常ではありませんね。

どうしたんです」

メガネを押さえたジェイドが、今度は聞いた。

ガイが言うには

小さな頃は女性は怖くなかったらしい。

一瞬だけ…

家族が亡くなった時だけ記憶が抜けていて

それが原因かもしれない、とガイは説明した。

「俺の話はいいよ。それより…」

ガイはジェイドに「話せ」というように見た。

「あなたが自分の過去について

語りたがらないように

私にも、語りたくないことはあるんですよ」

もうこの話は終わりだというように

ジェイドはガイに背中を向けた。


気まずい空気のまま、さらに奥に進むと

アリエッタの仲間のライガが

走り去っていく姿が見えた。

ルーク達がそれを追って屋上まで走っていくと

グリフィンがルークと

イオン様をかばったアニスを捕まえて飛んだ。

アニスは途中で降ろされたが

ルークは椅子に乗ったディストに受け止められ

どこかに連れ去られていった。

「ディストまで絡んでいましたか。

やれやれですねぇ」

「死神ディストのこと知っているの?」

「いいえ、全く知りません」

未来の問いに

ジェイドは両手を広げて苦笑した。


ルークが連れ去られたのは

先ほどの譜業の中だった。

先頭を切っていたガイが

仮面の男・烈風のシンクに斬りかかったが

シンクは隙をついて、逃げようとした。

「今回の件は、正規の任務じゃないんでね。

アリエッタに任せるよ。

奴は人質と一緒に屋上にいる。

振り回されてゴクロウサマ」

そう皮肉を残して、シンクは去っていった。

ジェイドが譜業のスイッチらしきものに触れて

ルークの周りにあった光は消えた。

「屋上、でしたか。

何度も同じ所を行き来するのも面倒ですね」

階段を上がったジェイドは、そうこぼした。

「確かに面倒だけれど

人質のためにも行きましょう、ジェイド」

仕方がなく未来達は屋上へと急いだ。


屋上についたルークは

再び捕まえようとしたグリフィンに向かって

ミュウに炎を吐かせた。

「何度も同じ手に引っかかるかよ!」

ルークは得意気だった。

「アリエッタのお友達に…火…噴いた!

もう許さないんだからぁ!」

アリエッタが言う最後の方は

もはや叫びに近く、戦いは始まった。

未来は短剣を取り出したが

魔物と前衛で戦うのは苦手だった。

「くっ!」

ライガの爪から逃れるのに必死で

詠唱も出来ない。

「光の鉄槌よ!リミテッド!!」

「あっ!」

ライガに集中していた未来は

アリエッタの譜術を受けてしまった。

さらにライガが攻撃をしようとしたが

「瞬迅槍!」

「っ!?」

未来をライガから助けてくれたのは

ジェイドだった。

マルクト軍服を着た頼もしい背中が

未来の前にあった。

「お別れですね」

ライガを倒したジェイドが笑う。

「ジェイド…ありがとう」

未来がお礼を言っていると

アリエッタはすでに気絶していた。

「やはり見逃したのが、仇になりましたね」

ジェイドはフーブラス川の時のように

アリエッタに槍を向けたが

イオン様がアリエッタをかばうように

ジェイドの前に立った。

「待ってください!

アリエッタを連れ帰り

教団の査問会にかけます」

「それがよろしいでしょう」

屋上に新たな声が響いた、ヴァンだった。

「もしやと思いここへ来てみれば…」

そう言いながらゆっくりと

ヴァンはイオン様へ向かって歩いた。

「すみません、ヴァン…」

謝ったイオン様に、ヴァンは首を横に振り

アリエッタを抱き上げた。

そして一行は

ヴァンが手配した馬車で帰ることになった。


カイツール軍港まで戻り

ヴァンに続いてルーク達は

キムラスカ軍基地に入った。

「これはこれは、ルーク様」

アルマンダインと名乗った人は

笑顔をルークに見せた。

「そうだ。

伯爵から親父に伝令を出せないか?」

ルークは何かを思いついたようだった。

「ご伝言ですか?

伝書鳩なら…」

「それでいい。

これから導師イオンと

マルクト軍のジェイド・カーティス大佐と

未来中佐を連れてくって…」

そうルークが言うと

アルマンダイン伯は、驚いたように

ルークの後ろにいるジェイドと未来を見た。

「…ルーク。あなたは思慮がなさすぎですね」

「ルークらしいけどね」

突然のルークの提案に、未来は苦笑した。

「カーティス大佐に未来中佐…

死霊使いジェイドと堕天使未来のことか」

「その通りです」

「ご挨拶もせず、大変失礼致しました」

アルマンダイン伯に

ジェイドと未来は頭を下げた。

「マルクト帝国皇帝

ピオニー九世陛下の名代として

和平の親書を預かっております」

「ずいぶん貧相な使節団ですな」

ジェイドと未来の二人だけか

とアルマンダイン伯の顔は言っていた。

「あまたの妨害工作がありました故

お許しいただければと思います」

未来はもう一度、頭を下げた。

「わかりました」

アルマンダイン伯は頷き

宿屋でゆっくりと休むように言った。


未来は眠れずに、夜の海を見ることにした。

船の修理をする金槌の音が聞こえる。

「…未来…」

未来を追うように歩いてきたのは

ジェイドだった。

「ジェイド…」

「眠れないのですか?」

「…うん」

未来はうつむいたが

しばらくしてジェイドを見た。

赤い瞳の中に自分がいる、と未来は思った。

「さっきの戦いで、助けてくれてありがとう。

でも…駄目だわ、私…

魔物との戦いに慣れてなくて

なにが堕天使よね」

未来は、自分が非力すぎて

泣きたい気持ちだった。

「いいえ」

ジェイドは未来の自虐を否定し

「そうやって反省する人だけが

成長できるのです」

諭すように言った。

「それに…私は…」

「え?」

「なんでもないです」

ジェイドは何かを言いかけたが

宿へ戻ろうとした。

「冷えないうちに、部屋に入ってくださいね」

未来を一度振り返り

ジェイドは出来るだけ笑った。

(これで未来が

少しでも安心してくれればいいのだが…)

宿屋へ歩きながら、ジェイドは考えた。


翌朝、朝日に照らされて

未来達は船に乗った。


to be continued

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