第八話「ケセドニア」


「未来中佐…。

船長がカーティス大佐と

お話ししたいそうですが

大佐を見かけませんでしたか?」

船に乗った未来に

キムラスカの兵士が話しかけてきた。

「いいえ、私はどこにいるのか知らないわ。

けれど、私も探してみる」

「ありがとうございます」


未来は散策がてらジェイドを探した。

(ん?これはジェイドとルークの声?)

面舵がある部屋で

ジェイドとルークが何か話しているようだった。

「もしも自分が自分でなかったら

どうします?」

ジェイドは思いつめた声をしていた。

「はぁ?何言ってんの?」

対照的に、ルークはいつもの調子だった。

「いえ…我ながら馬鹿なことを聞きました。

忘れてください」

(ジェイド…?)

未来はコーラル城でのことを思い出した。

ジェイドは一体、何を隠しているだろう?

「いつかあなたは

私を殺したいほど恨むかもしれません。

…いや、もう恨まれているか…。

…それより、そこにいますね?未来」

体がピクリと跳ね

仕方がなく未来はジェイド達に姿を見せた。

「あ…分かっちゃった?

ごめんなさい。

立ち聞きするつもりはなかったの」

「なら謝るなよ…。

じゃ、俺はヴァン師匠のところへ行くわっ」

そう言ってルークは立ち去り

ジェイドと未来だけが残された。

「ジェイド、あの…今の話は…」

「ルークにも言ったでしょう?

忘れてください、と」

ジェイドは未来を見ようとしなかった。

メガネをかけなおし、遠くの海を見つめていた。

「それは…そうだけど…聞いてごめんなさい」

「謝るとは、いいコですね。

まぁ許して差し上げましょう」

そう言ってジェイドは未来に笑ったが

再び海を見てしまった。

そこには、いつものおどけた様子はなく

何かに耐えてるようだった。

(ジェイド…)

未来はジェイドの

「知ってほしくない」

という気持ちを感じ、寂しい気持ちになった。

(なんで私、こんなに苦しいの?)

船は順調に進み、ケセドニアについた。


アリエッタを連れたヴァンと別れて

未来達はケセドニアの町を歩いた。

するとピンクの派手な格好の女性が

ルークに近づいて

馴れ馴れしく寄り添った。

「あ?な、なんだよ」

ルークは迷惑そうにする。

「せっかくお美しいお顔立ちですのに

そんな風に眉間にしわを寄せられては…

ダ・イ・ナ・シですわヨ」

女性はさらにルークに密着した。

「きゃう…アニスのルーク様が年増にぃ」

アニスは、その場でじたばたし

「あら〜ん。ごめんなさいネ、お嬢さん。

お邪魔みたいだから行くわネ」

アニスの

「年増」

という言葉にイラついたようにしながら

女性は立ち去ろうとした。

「待ちなさい」

しかし、ティアが女性を引き留めた。

「あらん?」

「盗ったものを返しなさい」

ティアの言葉に

ルークは自分のポケットを確認した。

「あーっ!財布がねーっ!?」

ルークも慌て始めた。

「はん。ぼんくらばかりじゃなかったか」

女性はさっきまでとは違い

低い声でもらした。

「ヨーク!後は任せた!

ずらかるよ、ウルシー!」

仲間と思われる

ピエロのような恰好をした男が

女性が投げたルークの財布を受け取ったが

「逃がさない!」

未来が素早く短剣を、男の首にむけた。

「動かないで。

返さないならばどうなるか

分かっているでしょ?」

容赦がない声で未来が言うと

男はルークの財布を未来に渋々渡した。

「俺たち『漆黒の翼』を敵に回すたぁ。

いい度胸だ」

屋根にのぼった男がそう言って

三人は去っていった。

「あいつらが漆黒の翼か!

知ってりゃもう

ぎったぎたにしてやったのに」

「そう言えば、ルークは

漆黒の翼と間違えられてたわね」

未来は初めてルーク達に会った時を

思い出しながらルークに財布を渡した。

「ところで大佐は

どうしてルークがすられるのを

黙って見逃したんですか?」

「…やっぱり」

ジェイドが見逃したのを

ティアと未来は気づいていた。

「やー、ばれてましたか。

面白そうだったので、つい」

「教えろよ、バカヤロー!」

相変わらずのジェイドの笑顔に

ルークは怒った。


イオン様の提案で

アスターという人の屋敷に向かい

アスターは嬉しそうにイオン様を歓迎した。

ケセドニアは

ダアトに莫大な資金を渡しており

見返りとして、ケセドニアは

自治区として認められているらしい。

イオン様がお願いし

ガイがシンクから奪った音譜盤の

解析してもらうことにした。

解析結果は、すぐに

大量の書類となって返ってきた。


屋敷を出たルークに、キムラスカ兵が

船の準備ができたことを伝えた。

しかし、どこからかシンクが

ガイに向かって駆けてきた。

「危ない!」

ティアの警告は間に合わず

シンクの攻撃を受けたガイの腕に

紫の紋章らしきものが浮かんだ。

「それを、よこせ!」

シンクは今度はガイの足元を蹴った。

「ここでいさかいを起こしては迷惑です。

船へ!」

ジェイドの指示をきっかけに

みんなは船へと逃げた。


to be continued

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