第六話「国境にて」


「あれ、アニスじゃねぇか?」

カイツールに到着して

すぐにアニスは見つかった。

国境にいる兵士に

なにやらお願いをしているようだった。

「証明書も旅券も、なくしちゃったんですぅ。

通して下さい。お願いしますぅ」

「残念ですが、お通しできません」

「ふみゅう〜」

アニスはかわいらしく返事をしたが

次の瞬間

「月夜ばかりと思うなよ」

今までのアニスとは、違う声と違う顔で言った。

「あ、アニス?!」

アニスの突然の変貌に未来は驚いた。

「アニス。ルークに聞こえちゃいますよ」

イオン様は気にせず言い

「ん?…きゃわーん!アニスの王子様!!」

ルークを見てアニスは

いつものようにルークに飛びついた。

「女って、こえー」

それを見てガイはつぶやいた。

「そうね。

まさかアニスがこんな性格だったとは…」

未来も、まだ動揺が収まらない。

「そうですか?

誰もが裏の顔があるものですよ」

ジェイドは前から知っていたからか

ただ単に驚かないだけか、冷静だった。

その間も、アニスは

ルークに抱きついたまま離れない。

「こっちも心配してたぜ。

魔物と戦って

タルタロスから墜落したって?」

「そうなんです。

アニス、ちょっと怖かった…てへへ」

「そうですよね。

『ヤローてめーぶっ殺す!』

って悲鳴あげてましたものね」

「イオン様は黙っていてください!」

アニスはルークから離れて言った。

「ちゃんと親書だけは守りました。

ルーク様!褒めて!」

「ん、ああ、偉いな」

「きゃわん」

ルークの労いにアニスは喜んだ。

「無事で何よりです」

「はわー!

大佐も私のこと心配してくれたんですか?」

ジェイドの言葉に、アニスは更に喜ぶが

「ええ。親書がなくては話になりませんから」

と言われた。

「え、ジェイドそっち?」

「そっちです、未来」

指摘をした未来に

ジェイドは振り返って頷いた。

「ところで、どうやって検問所を越えますか?

私もルークも旅券がありません」

「ここで死ぬ奴に、そんなものはいらねぇよ」

ティアの疑問に答えるように

どこかからか赤髪の男がルークを突き飛ばした。

「鮮血のアッシュ…」

タルタロスを襲った一人、アッシュだった。

そのままアッシュは

ルークに斬りかかろうとした。

なごんでいた空気が、一転して張り詰める。

「退け、アッシュ!」

しかしアッシュの剣を

ルークから守るように受け止めたのは

ヴァンだった。

「ヴァン、どけ!」

それでもアッシュは構えた剣を

下ろそうとしなかった。

「どういうつもりだ。退け!!」

ヴァンの強い命令に

アッシュは仕方がなく去って行った。

「師匠!」

ルークが安心して起き上がる。

「ルーク。今の避け方は不様だったな」

「ちぇっ。会っていきなりそれかよ」

そう言うルークは嬉しそうだった。

「ヴァン!」

兄の名を呼んだティアは

ナイフを取り出してしまう。

「ティア、やめて!」

未来は、超振動が起こったいきさつ

ティアは兄を殺そうとしたこと

を知っていたから、ティアを止めようとした。

「そうだ。

ティア、武器を収めなさい。

おまえは誤解をしているのだ」

「誤解?」

構えを変えずにティアは

不満そうに聞き返す。

「頭を冷やせ。

私の話を落ち着いて聞く気になったら

宿まで来るがいい」

そう言ってヴァンは

先に宿屋へ向かおうとした。

「ヴァン師匠!助けてくれて、ありがとう」

「苦労したようだな、ルーク。

しかし、よく頑張った。

さすがは我が弟子だ」

「へ、へへ!」

ルークはさらに嬉しそうだった。

(あれ?)

しかし、そこで未来は違和感を感じた。

(普通、ねぎらうならば相手を見て言うはず。

なのにヴァン謡将は、背中を向けている?)

それが未来には妙に気になったが

まずは慌て始めた

自分の服と同じ色水色の軍服の

マルクト兵のところへ向かった。

「私はマルクト帝国軍第一師団所属

未来中佐です。

この場はもう収まりましたから

安心して普段の警備に戻りなさい」

「了解いたしました、未来中佐」

マルクト兵は敬礼して言った。

そして未来が帰ってくると

イオン様とルークが、口調は違ったが

ティアにヴァンの話を聞くよう

説得していた。

「イオン様のお心のままに」

『納得がいかない』という顔をしながらも

そう言ってティアは武器をようやくしまった。


言われた通りに一行は

ヴァンを追いかけて宿屋に入った。

「頭が冷えたか?」

待っていたヴァンは

妹思いの優しい声で聞いた。

しかしティアは

なぜ平和を望むイオン様の邪魔をするのか?

と責めた。

「落ち着け、ティア。

そもそも、私は何故

イオン様がここにいるのかすら

知らないのだぞ」

「すみません、ヴァン。僕の独断です」

イオン様が申し訳なさそうに言った。

「こうなった経緯を、ご説明いただきたい」

「イオン様を連れ出したのは、私たちです。

…ということで未来、説明を!」

未来を見てジェイドが言い出した。

「え、私?」

未来は渋々、今までのことを話した。


「なるほど。

事情はわかりました、未来中佐。」

未来の説明を聞いて

ヴァンは納得したように頷いた。

「おそらく大詠師モースの命令が

あったのだろう。

六神将達が動いていることは

私も知らなかった。

それよりティア。

おまえこそ、なぜここにいる」

ヴァンはティアを見つめたが

「モース様の命令で

あるものを捜索しているの。

それ以上は言えない」

ティアは冷たい目をやめなかった。

「第七譜石か?」

「機密事項です」

それどころか、ティアはさらに冷たく言った。

しかしルークは第七譜石を知らず

未来は仕方なく第七譜石の説明をした。

「ふーん。

それをティアが探してるってのか?」

「さあ、どうかしら?」

ティアはとぼけようとした。

ひとまず旅券もヴァンが持っており

「これで国境を越えられるんだな」

ルークは嬉しそうだった。

ヴァンは船の手配をするということで

先にカイツール軍港に行くと告げて

宿屋を出た。


to be continued

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