■第六話「波紋」

私だけ朝ごはんを食べて

セイと一緒に家を出た。

セイの着替えを買いに行こう!という

話になったからだ。

「えっとさ…未来」

「ん?」

私が家の鍵をかけていると

セイは少し恥ずかしそうに声をかけてきた。

「せっかくの初めてのデートだから…」

そう言ってセイは

自分の左手を私に差し出した。

「もちろんだよ!」

手をつなぎたいのだと分かった私は

嬉しくなって

ぎゅっとセイの左手を自分の右手で握った。


「でもセイがお金持っていたのは驚いたな」

「だってコンシェルジュだもん」

近くにあるショッピングモールで

私達はそんな会話をした。

今いるのはファミリー向けの洋服屋だった。

他のお店でもセイに似合いそうな服を選んで

お会計はセイがした。

「そうだけど…あ!」

頼ってくれてもいいけれどと思っていた私は

あるパジャマに目が止まった。

「どうしたの?」

「これ、ペアのパジャマだって…」

そのパジャマは紺色で前開きのボタンがついていた。

「おそろいか…いいな」

セイそう言ってじっとパジャマを見て

「買おうか?」

メンズのパジャマを持っていたかごに入れた。

「うん!」

なんだか新婚のようで

私は照れくさかったけれど幸せをかみしめた。


小さな事件はその直後に起こった。

二人でレジに並んでいると

ドン!

と音を立てて

小さな男の子がセイの背中にぶつかった。

「あ、ごめんなさい」

幼稚園児くらいの年齢の男の子は

慌ててセイに謝った。

「いいんだよ。ケガはない?」

そんな男の子にセイは微笑んで

セイの優しさを私は再確認した。

「うん…でもお兄ちゃん

なんで背中に穴が開いているの?」

「え?」

「あ…」

男の子の素朴な疑問に

私もセイも硬直した。

セイは制服のインナーを着ていて

背中の穴のことは考えていなかった。

「あ、ここにいたのね!

すみません」

答えに迷っている私達に

その子のお母さんらしき人が来て

私達に謝ってから

その場を去って行った。

「セイ…」

「レジ、空いたよ」

セイはそれだけ言うと

レジに歩いていった。

それからずっと買い物中も

家についてもセイも私もよそよそしかった。


to be continued