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「紗良、泳がないの?」

「うーん、私、泳げなくて……」

「そんなの俺が教えるって」

そう言ってカルマは紗良の座っている浮き輪をぐらぐらと揺らす。

「わっ! ちょっとカルマ君……!」

そして紗良はバランスを崩して、バシャンと水の中に落ちてしまった。

「な、何するのっ……!」

深くて足がつかないので、紗良はカルマの腕にしがみつく。
紗良は抗議の視線をカルマに向けるが、カルマはへらりと笑うばかりだ。

「ごめんごめん。うきわ、邪魔だったからさ」

反省している様子のないカルマに紗良は不服そうな表情を浮かべる。
その時、ピー! と笛の音が鳴り響いた。

「こらカルマ君! 無理やり浮き輪から落としたら危ないでしょう!!」

殺せんせーはピーピーと笛を鳴らして次々と生徒たちを注意している。
プールマナーにやたら厳しい殺せんせーに、皆少しうんざりした表情を浮かべた。
どうやら自分の作ったフィールドの中で王様気分になっているようだ。

「景観選びから間取りまで自然を活かした緻密な設計。皆さんには整然と遊んでもらわなくては」

「固いこと言わないでよ殺せんせー。水かけちゃえ!」

倉橋が手で水をすくって殺せんせーにかけると、「きゃんっ!」と可愛い悲鳴が聞こえた。
一瞬しんと辺りが静まり返る。

もしかして、殺せんせーは水が苦手なのだろうか。
紗良がそう思うと同時に、目の前のカルマが意地悪な笑みを浮かべていることに気づいて一瞬背筋が寒くなる。

「紗良、ちょっと待ってて。すぐ戻るから」

カルマは浮き輪を紗良に持たせると、水の中に潜って殺せんせーの方へと泳いでいった。
そして殺せんせーが座っているイスをの脚をつかんで思いっきり揺らし始めた。

「きゃあっ! カルマ君、揺らさないで!! 水に落ちる!! 落ちますって!!」

あたふたと慌てる殺せんせーを見て、みな唖然としている。

「殺せんせー、もしかして……」

「……いや、別に泳ぐ気分じゃないだけだし。水中だと触手がふやけて泳げなくなるとかそんなん無いし」

「先生……泳げないんだ……!」

殺せんせーは、泳げない。
今まで知らなかった意外な弱点が明らかになった。
これは、今までで一番使える弱点かもしれない。
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