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学秀は、1つの傘に入っている紗良とカルマを見て眉間にシワを寄せると、つかつかと歩み寄ってきた。
「やっほー、浅野クン」
「学秀君も、今帰り?」
「……そうだが。紗良、どうして赤羽なんかと仲良く相合傘なんてしてるんだ」
「えっと、カルマ君傘忘れたらしくて」
学秀はカルマの方をキッと睨み付ける。
「今日は降水確率90%だっただろう」
「えー天気予報なんて見てないし」
そういってへらっと笑うカルマに、学秀の眉間のシワが一層深くなる。
「だいたい、距離が近すぎるっ。もうちょっと離れろ!」
「はぁ? 近づかないと濡れちゃうじゃーん」
そう言ってカルマは紗良の肩をぐいっと引き寄せた。
「わわっ!」
「赤羽、紗良に気安く触るなっ!」
「触るなって、紗良を自分のものみたいに言わないでくれる?」
「貴様のものでもないだろう」
「んーまだね」
「まだ、とはどういうことだ」
「俺、紗良に告白済みだから」
「…………は?」
それまで勢い良く言い合っていた二人だったが、カルマの一言で学秀は目を見開いたまま固まった。
「じゃ、そういう訳で。行こ、紗良」
「ちょ、ちょっとカルマ君……!」
学秀を置いて、カルマはすたすたと歩いて行く。
紗良の傘はカルマが持っているので、紗良も慌ててカルマの後に続いた。
紗良が学秀の方をちらりと振り返ると、依然としてその場に固まったままだった。
「紗良。俺と付き合う気になったら、いつでも言ってね?」
カルマは紗良の顔を覗き込むようにしてそう告げた。
紗良は、少し恥ずかしそうに頷く。
そんな紗良の様子を見て、カルマは満足気に笑った。
その晩、紗良に学秀から「赤羽だけはやめておけ!!」と電話がかかってきたことをカルマは知る由もない。
湿気の時間 end
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