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梅雨の時期がやってきた。
旧校舎の窓から外の景色見ると、今日もあいにくの雨模様だ。
「ねぇ、紗良」
下校時間、帰り支度をしているとカルマに名前を呼ばれた。
「どうしたの、カルマ君」
「傘入れて?」
カルマは笑顔でそう言ってきた。
「……カルマ君、また今日も傘持ってきてないの?」
「うん。朝降ってなかったから大丈夫かなーと思ったんだけど」
このやり取りは、今月に入ってもう何度目だろうか。
朝に雨が降ってない日は、天気が悪くてもカルマは傘を持ってこないので、いつも紗良が傘に入れてあげている。
「しょうがないなあ……」
今日もカルマと一つの傘に入って下校することになった。
傘はいつもカルマが持ってくれて、紗良の方に傘を寄せてくれるので紗良が濡れる心配はないが、その代わりカルマの肩が濡れてしまっている。
その事が申し訳なくて、紗良はなるべくカルマの方に体を寄せるけれど、普段より近い距離に少し緊張してしまう。
ちらりとカルマの方を見上げると、カルマは自分の肩が濡れている事を特に気にした様子もなく、ご機嫌そうだ。
「カルマ君、大丈夫?」
「ん、なにが?」
「肩。濡れちゃってるよ」
「へーきへーき。……あ、浅野クンだ」
帰り道の途中で、紗良とカルマは学秀に遭遇した。
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