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「東堂はバケモノだ。全員で相手して、全滅するのが最悪のパターン。だから足止めとして、1人だけ。パンダが恵を置いていくつもりだったが…」
そこまで言ってから先輩は言葉を止め、虎杖くんの方を向く。
「虎杖。お前に任せる。」
「索敵できるやつ減らしたくねーし。…勝たなくていい。出来るだけ粘って、時間を潰せ。」
「でも大胆に行けよ!ぶっちゃけお前は予定外の戦力だから、リタイアしてもあんまり困らん。」
「ひでぇ!!!!」
確かにそうだな、と頷きながらも虎杖くんの叫びに苦笑いする。…虎杖くんがリタイアなんて、しないと思うけどなぁ。
「悪いな、恵。お前、東堂とやりたかったろ。」
「いや別に。どっちでも。」
『スーパードライだね…』
あまりにもサッパリとした返答をした伏黒くんに目を丸くすると、虎杖くんが静かに口を開く。
「…でも、先輩。やるからには…勝つよ、俺。」
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作戦会議中に虎杖くんが言ったことを、私は信じている。私たちが特訓していた間、虎杖くんも同じように特訓をしていたはず。それならきっと、大丈夫。
つもりに積もる不安に負けないよう自分を鼓舞していると、伏黒くんが足を止め、上空を見た。私もそれに倣って上を向くと、京都校の人が箒で飛んでいる。
『…どうする?』
「…鵺を出す。櫻井はその後に備えろ。」
『了解。』
小声で会話をし、真希先輩の横に下がる。私がヌンチャクを構えるのと同時に伏黒くんが手を構えた。
「…落とせ!」
伏黒くんの指示に合わせて鵺が攻撃し、箒に乗っていた人が私たちとは逆方向に落ちていった。
私たちはそれを横目で見ながら、加茂さんと三輪さんを追う。
『(……いた、)』
綺麗な水色の髪を捉え、ヌンチャクで殴りかかると、驚いた顔をした三輪さんに刀で防がれる。真希先輩と伏黒くんは加茂さんを取り押さえにかかるが、それもまた防がれてしまう。
「……加茂さん、アンタら………虎杖殺す気ですか。」
伏黒くんの口から重苦しく吐かれた言葉に強く唇を噛む。押し黙った加茂さんに、先程の予想は的中していたのだと言われているような気がして、今度は奥歯をグッと噛み締めた。
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「…変です。」
『え?』
「あ?」
伏黒くんから突然放たれた言葉に首を傾げる。意味が分からないのは真希先輩も同じようで、2人で顔を見合わせる。
「京都校がまとまって行動してます。虎杖と分かれた辺りで。…おそらく、全員集合してます。」
「ターゲットがそっちにいるってことか?」
「いや、二級ならよほど狡猾でない限り玉犬が気付きます。」
『……じゃあ、目的は虎杖くん、ってこと?』
私の中での最悪な予想を口に出すと、伏黒くんが重苦しく頷いた。
「…アイツら、虎杖殺すつもりじゃないですか?」
『………そういうことに、なるよね。』
唇を噛み締めながら相槌を打つと、真希先輩が少し沈黙してから口を開いた。
「ありえるな。」
真希先輩から吐かれたその言葉で頭の中が真っ黒なモヤで埋め尽くされる。
せっかく虎杖くんが生きて帰ってきてくれたのに、殺すつもりだなんて。絶対に許さない。やっと戻ってきた私の太陽を、どこの誰かも知らないような奴らに殺されるなんて。何を考えているのだろう。虎杖くんがどんな人か知らないくせに、よくもぬけぬけと…
「…戻るぞ、恵、なまえ。」
脳内が怒りで埋め尽くされそうになった時、真希先輩がそう言って踵を返した。私と伏黒くんはその行動にハッとして、真っ暗な思考回路から戻ってくる。
「…すいません。」
『ごめんなさい、真希先輩…』
「何謝ってんだ馬鹿ども。…仲間が死んだら、交流会も勝ち負けもないだろ。」
真剣な眼差しで前を見据えて歩く真希先輩に、少しだけ不安が和らぐ。私も真希先輩みたいに強く心を持たないと。
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数分前の記憶を思い起こすと、今でも頭に真っ黒なモヤが出てきたような気分になる。それを取り払うかのように黙っている加茂さんを横目で一瞥すると、閉ざしていた口を開いた。
「…そうだ。…と言ったら?」
「失敗したんですね。この短時間で虎杖がやられるわけがない。」
自信に満ちた声色で吐かれた伏黒くんの言葉に、一抹の不安が和らぐ。そうだ、確かにそうだ。虎杖くんがものの数分でやられてしまうわけがない。そう思うと黒いモヤは消えていき、冷静な思考回路に戻る。
「殺す理由がない。」
「あるでしょ。上や御三家ならいくらでも。」
その言葉を皮切りに移動し始めた三輪さんを見て、私も慌ててそれを追った。
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