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私たちの言葉を聞いた先輩方が少し目を見開く。
「(東堂と戦ってる恵と、この期間で私とほぼ対等に組手できるレベルまで成長したなまえがそこまで言うんだ。…信憑性はある。おもしれぇ。)」
ニヤリと笑みを深めた真希先輩が口を開く。
「…よし、作戦会議だ。」
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作戦会議を終え、開始の準備をしている虎杖くんの様子を伺う。重要な役割を任されたことと、その他にもまだ悩んだ様子の彼を心配していると、伏黒くんが虎杖くんに声をかけた。
『………ううん、やめておこう。』
私も続けて話しかけようかと思ったが、微かに聞こえた伏黒くんの言葉で私が話しかける必要はないと悟った。
「何かあっただろ。」
確かにそういった伏黒くんを背にして、門の方へと歩き出す。
…私が心配しなくても、虎杖くんにはたくさんの心配してくれる人がいるということが、こんなにも喜ばしいなんて…!
嬉しい気持ちが抑えられず、五鬼助の代わりに使う木製のヌンチャクを素振りのように振る。
「…気合入ってんじゃねーか、なまえ。」
「すごい気迫ね。どうしたのよ?」
『あ、真希先輩、野薔薇ちゃん…』
恥ずかしい所を見られてしまったな、と少し顔が熱くなったが、軽く説明をしようと言葉を続けた。
『虎杖くんは、幸せ者なんだなって思ったら、嬉しくて堪らなくて…つい…』
「なまえらしいわね。」
「その調子で、京都校のやつらも頼むぞ。」
『はい、全力で頑張ります!』
そう口にした時、後ろから伏黒くんが歩いてきた。
その時聞こえた言葉に、野薔薇ちゃんがつかさず返す。
「なーにが割とよ。一度ぶっ転がされてんのよ?圧勝!!!コテンパンにしてやんのよ!真希さんの為にも!!!」
「…そーゆーのやめろ。」
「明太子!!!」
『みんなで頑張ってコテンパンにしましょう!』
「そうそう、真希の為にな!!!」
「だから、そういうのやめろって!」
賑やかに話す私たちに走って並んだ虎杖くんが肩を鳴らすかのように構える。
「そんじゃまぁ……勝つぞ!」
格好良く決めた虎杖くんの背中を真希先輩が蹴る。
「何か仕切ってんだよ。」
『あはは…』
私たちらしい、交流会の始まりな気がした。
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呪術高専敷地内の林の中、私たち東京校チームは静かに待機していた。すると、設置されたスピーカーから五条先生の声が響く。
「開始、1分前でーす。ではここで、庵歌姫先生にありがたーい激励の言葉をいただきまーす。」
「は?!!?!えーと……あー…ある程度の怪我は仕方ないですが……ぁー…その…時々は?助け合い的なアレが……」
「時間でーす!」
「ちょ、五条アンタねぇ!!!!」
「それでは、姉妹校交流会…スターーーーート!!!」
「先輩を敬え!!!」
盛大な音割れと共に放たれた開始の合図に苦笑いしながら足を進める。隣を走る野薔薇ちゃんはアホくさ、とため息をついて呆れ顔である。
「ボス呪霊、どの辺にいるかな?」
「放たれたのは両校の中間地点だろうけど、まぁじっとはしてないわなぁ。」
虎杖くんの疑問に答えたパンダ先輩の言葉に頷く。中間地点でじっとしていてくれたら、どれほど楽だろう。…まぁそんなことはあるはずはないのだけど。
「例のタイミングで、索敵に長けたパンダ班と恵班に分かれる。後は頼んだぞ、悠二。」
「おっす!」
作戦の確認をしていると、先頭を走っていた玉犬が吠えたてる。前方を確認すると、蜘蛛のような姿の呪霊が向かってきていた。
「雑魚だな。」
『祓いますね。』
ヌンチャクを手に呪霊に飛びかかろうとする。するとその時、後ろから声が響いた。
「櫻井、ストップ!」
伏黒くんの声に足の力を緩めると、先程まではいたはずの呪霊が真横に吹っ飛んでいった。土埃の中そこに立っていたのは東堂さんだった。
「よぉぉし!!全員いるな?まとめてかかって来い!!!」
力強く放たれたその言葉に虎杖くんが向かっていく。東堂さんの顎に蹴りを入れたのと同時に、私たちは二手に分かれた。
横を走る伏黒くんと真希さんが神妙な表情で口を開く。
「東堂1人でしたね。」
「やっぱ悠二に変えて正解だったな。」
『虎杖くん、強いですから。』
足は止めず、口だけを動かす。横目で2人の表情を伺うと、今度は私と同じ笑みを浮かべていた。
そう、私たちは勝つのだ。先輩方の考えてくれた作戦を使って。
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「東堂は、確実に直で私たちを潰しに来る。真衣も、私目当てで便乗してくるかもな。」
作戦会議中、真希先輩はそう言った。
その言葉で私の頭にあの時のことがフラッシュバックする。
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