02
外では部活動をしている生徒たちの声が飛び交い、爽やかな風の吹く校舎の4階。
心霊現象研究会と書かれた紙が目立つように貼られた部室で、私たち4人は机を囲んでいた。
「始めますよ。本当にいいんですね…?」
部屋の中に漂う、絶妙な緊張感。
それを醸し出しているのは紛れもない私たちである。
「佐々木先輩…井口先輩…それになまえも…」
神妙な顔をして私たちの顔を見回す虎杖くんに、私が頷き返すと、決心したように声をあげ…
「こっくりさん、こっくりさん、生徒会長がギリ負ける生き物を教えてください!!!」
そう言った後、4人で指を乗せていた5円玉が動き出し…
「く、り、お、ね…?」
くりおね。確かにその順番で辿った。
クリオネって…あの、透けてる可愛いやつだろうか。
あんなのに負けてしまう生徒会長…正直全く想像がつかないんだけどな…
そんな私とは裏腹に、先輩方や虎杖くんは笑っている。そんなに笑っていては、外に聞こえてしまうのでは…?
少し不安に思い、声のボリュームを落としてもらおうとした時、勢いよくドアが開いた。
「オカ研!!!」
「お、プランクトン会長!どったの〜?」
『プランクトン会長…』
確かにクリオネはプランクトン食べるけど…
苦笑いしていると、生徒会長が机の上に何かを叩き付けた。
何事かと見てみると、
『通知書…?』
「活動実態の無い研究会には、事前通告の通り部室を開け渡してもらう。さっさと退去しろ!」
その発言にニヤリと笑った虎杖くんに、私も目配せをした。
私の意図を汲んでくれたようで、会長の方に向き直って煽るように口を開いた。
「うちの先輩方を舐めてもらっちゃ困るな、会長。」
『佐々木先輩、これどうぞ。』
本棚から撮った怪奇事件ファイルを手渡すと、ありがとう、とお礼を言ってから流れるような動作でそれを机の上に叩き付ける。
怪訝そうな様子の会長が、なんだそれは?と問うと、佐々木先輩が不敵な笑みを浮かべながら語り始めた。
「ラグビー場が閉鎖されているのはご存知ですね?」
「ああ。体調不良で入院した部員まで出たからな。」
「おかしいと思いませんか?!あの屈強なラガーマンがですよ?!!」
眼鏡をくいっとあげた先輩は自信ありげに続きを語り始める。
「実は、彼らが体調を崩す直前、奇妙な物音や、声を聞いたそうです。」
「そこで、この30年前の新聞記事です。」
先輩が開いたページには、“35歳元会社員杉沢で行方不明”と書いてある新聞の切り抜きが貼ってある。
会長も、神妙そうにその記事を覗く。
「建設会社の吉田さんが、行方不明になったという事件。最後の目撃情報はここ、建設途中の杉沢第三高校。」
先輩の言いたい事が分かってきたのか、会長も眼鏡を上げ、鋭い目つきで佐々木先輩を見る。
「資金繰りに行き詰まった吉田さんは、闇金に手を出し、そのスジの組織にも狙われていた…」
「つまり!!!」
力強く拳を握った先輩が勇ましく、そして高らかに告げる。
「一連の騒ぎの原因は、ラグビー場に埋められた吉田さんの怨霊の仕業だったのです!!!」
格好良く決めた先輩の横に立ち、パチパチと拍手を送る。
先輩の考察は理にかなっていると思うし、何よりも語り方が上手い。これなら納得して…
「いや、マダニが原因だそうだ。」
淡々と言葉を告げた会長に、私たちは呆然と立ち尽くした。それから、ハッとしたように虎杖くんと井口先輩が反論をする。
私も少し口を尖らせながらわなわなと震えている佐々木先輩の背中をさする。
「だから何だよ!!!オカ研がオカルト解き明かそうとしてんだから、立派な活動報告だろうが!!!」
『そうですよ!その名に恥じない、立派なオカルト研究です!!!!』
力強く反論した虎杖くんに続き、私も便乗して反論すると、眉間に皺を寄せた会長が信じられないとでも言うように言葉を続けた。
「ガキの遊びじゃないんだよ!そもそも、1番の問題は…」
会長の指した指は私と虎杖くんを指していて、
「虎杖悠二に、櫻井 なまえ!お前たちの籍がオカ研ではなく陸上部にあり、同好会規定が定める最低人員3名に達していない、という事だ!!!」
「『え?!!!』」
会長の意味の分からない発言に思わず声をあげた。
虎杖くんもまだ何が何だか分かっていないようで、2人で顔を見合わせる。
ふと圧を感じで、チラリと様子を伺うと…
「虎杖ぃ〜、なまえちゃん〜?」
「いや、ちゃんとオカ研って書いたけど?!」
『私もちゃんと書きましたよ?!!』
先輩方からの圧を感じながら自分の行動を思い返す。
私も虎杖くんも、確かにオカ研の名前を書いて提出したんだけど…
「俺が書き換えた…」
『…え?』
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