03
「俺が書き換えた」って言った?
一体誰がそんな姑息なことを?!と声の主を見ると…
「陸上部顧問、高木!!!」
『書き換えたって、なんでそんなこと?!!』
2人で問い詰めると、悪びれもなく胸を張りながら先生が口を開く。
「虎杖!全国制覇にはお前が必要だ!それに櫻井!櫻井がオカ研に入るとオカ研は実際に存在する研究会となり、虎杖の転部が可能になってしまうだろう!!!」
『横暴にもほどがある…』
あまりにも酷い理由に肩を落とすと、会長のツッコミが聞こえたような気がした。
そんな自分勝手な理由で入部届を書き換えていいわけがない。何より、虎杖くんが入りたくなさそうだし…
「しつけーな、何遍も断るって言ってんだろ!!」
「ダメだ!!!」
「ダメなの!!!??!」
あ、やっぱり嫌がってる。
それはそうか、虎杖くんはお爺さんの所にも行かないと行けないし…
先生も、お願いしたら聞いてくれるかもしれない…
『…あの、先生。』
「なんだ、櫻井。」
『…虎杖くん、困ってます。』
下を向いていた目線を先生の目に合わせると、一気に先生の顔色が変わった。
だんだん青白くなっていって、冷や汗もかいているみたいだ。やっと私の、生徒の話を聞いてくれる気になってくれたのだろうか。
『虎杖くん、嫌だって言ってるんです。先生は何回も聞いてるんですよね?なんで分かってくれないんですか?虎杖くんの気持ちが第一ですよね?陸上部がどうとかの以前に、虎杖くんが、嫌だって言ってるんです。これ以上虎杖くんを困らせるなら、』
「さ、櫻井!!」
『……はい?』
少し私から後退りながら、先生は私の後ろにいる虎杖くんたちにも聞こえるように声をあげた。
「た、確かに虎杖には陸上部に入る意思はない!だが、もう書き換えてあることは事実だ。そして、俺も鬼ではない。俺が負けたら、お前のことは諦めよう。正々堂々、陸上競技で勝負だ!!」
『………』
呆れてしまう。勧誘を無理に続けるのをやめて欲しいと頼んでいたのに、どうして聞いてくれないのか。
しかも、陸上競技でなんて…
「おもしれぇ…やってやんよ!!!」
私がまた口を開くよりも早く、虎杖くんが口を開いた。あれだけ嫌だと言っていたのに、勝負は大丈夫なのだろうか?
心配の意を込めて虎杖くんの様子を伺うと、彼は私にニコリと笑いかけた。
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『虎杖くん、本当に勝負するの?』
校庭に出た彼にそう質問すると、いつも通りの眩しい笑顔が返ってくる。
「うん。これに勝ったらもう諦めるって言ってたし、たぶん普通に勝てるかなって。」
『そっか…うん、確かにそうかも。虎杖くん運動できるもんね。』
「そうか?……あ、あとなまえ!」
『何?』
虎杖くんは改めて私の方に向き直り、照れ臭そうに目を逸らしてから、また戻して。
「さっきはありがとな。高木のこと説得しようとしてくれたんだろ?」
『…あ、さっきの…』
彼が言っているのは、先程の部室での話だろう。
確かに、説得しようとしたのは事実だけど、結局は何もできなかった。お礼なんて、受け取っていいのだろうか。
『虎杖くん、私は…』
「嬉しかったよ、ほんとにありがとうな!」
『あ、!』
準備が整ったのか、虎杖くんは高木先生たちの方に走り出す。
お礼については後で言うとして、勝負の前になにか私にできることは無いだろうか…
『い、虎杖くん!』
「!」
『頑張れ!』
「…おう!」
ニコリと笑った虎杖くんはまた前を見て走り出した。
なんだか落ち着かなくて、ソワソワしていると、肩に手を置かれる。
「なまえちゃ〜ん?」
『わ、佐々木先輩!!』
ニヤリと怪しい笑みを浮かべた佐々木先輩は、何か言いたげに口を開けた後、やっぱいいやと口をつぐんだ。
「14mです!」
どうやら早速先生が砲丸を投げたらしく、記録を知らせる男子生徒の声が聞こえた。
14mといったらかなりの高記録のはず。
大丈夫だとは言っていたけど、もし負けてしまったら…
「ねぇ、虎杖って有名なの?」
「うん…なんか、SASUKE全クリしたとか、色々噂があるけど…」
『SASUKEはまず出てませんよ…』
ひそひそと話す先輩方に笑うと、顔を見合わせてそれもそうかと笑った。
『あ、虎杖くん投げるみたいです。』
ふりかぶった虎杖くんが投げた砲丸は、
『あ、』
見事にサッカーゴールにぶつかった。
大きくガッツポーズをした虎杖くんが、こちらに帰ってくる。
「…虎杖、あんた運動部の方が向いてるよ。無理してオカ研残らなくていいんじゃない?それになまえちゃんも。なまえちゃん、器用だからなんでもできるしさ…」
「いや、先輩ら、怖いの好きなのに俺となまえがいないと心霊スポット行けないじゃん。」
『私も、そんな大したことはできないですよ…』
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