15


通りから少し離れたコインロッカーにたくさんの買い物袋を入れた女の子が堂々と胸を張って口を開く。


「釘崎野薔薇。喜べ男子、紅一点…ではないけど、まぁ崇めなさい。」

『なんかごめんなさい…?』


そう言うと女の子…釘崎さんは別にいいわよ、と小さくため息をついた。


「俺、虎杖悠二!仙台から!」

「伏黒恵。」

『櫻井なまえです。よろしくね釘崎さん!』

「(虎杖…見るからに芋臭い。絶対ガキの頃鼻糞食ってたタイプね。それに伏黒…名前だけって、私偉そうな男って無理。きっと重油まみれのカモメに火つけたりするんだわ。あと櫻井…普通の子に見えるけど、怒らせると面倒臭いタイプね。でも一番マトモそう。)…野薔薇でいいわ。あ、なまえだけよ。」

『え?あ、うん、野薔薇ちゃん…?』


釘崎さん…じゃなくて、野薔薇ちゃんの脳内でどんな思考が巻き起こっているのかなんて分かるはずもなく、許可された名前呼びを実践すると、満足そうに私を一瞥してから、また2人を見てため息をこぼす。


「人の顔見てため息ついてる…」

「これからどっか行くんですか?」


悶々とする虎杖くんをよそに、伏黒くんが五条先生に問いかける。すると先生は心底楽しそうに笑い、上に向かって軽く人差し指を立てる。


「せっかく1年が4人揃ったんだ。しかもそのうち3人はお上りさんと来てる。

…行くでしょ、東京観光。」


効果音でもつきそうなほどのキメ顔で言葉を発した五条先生に、虎杖くんと野薔薇ちゃんが目を輝かせる。


「「We LOVE Tokyo!!!!!!!」」


「えぇ…」
『あはは、2人ともはしゃいでるなぁ…』


五条先生を囲んで観光先を言い争う2人を横目に、私はふと思考を巡らせる。
果たして本当に東京観光なんだろうか?なんだか一筋縄ではいかないような気がして、伏黒くんに声をかけようとすると、五条先生が口を開く。


「それでは、行き先を発表します。」


その言葉を聞いた2人は首を垂れるかのように膝立ちになる。


「六本木!!!」


「「六・本・木!!!!!」」


ワクワクを隠せていない虎杖くんと野薔薇ちゃんが五条先生の後を意気揚々とついて行くのを、伏黒くんと顔を見合わせて苦笑いしてから追いかけた。


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しばらくして五条先生が足を止めたのは、何がおぞましいものを感じる廃ビルのような場所だった。


「「嘘つき!!!!!」」

『…ちょっとそんな気はしてた。』


口々に駄々をこねている2人をよそに、五条先生は笑顔のまま目の前のビルについて説明を始める。


「近所にデカい霊園があってさ、廃ビルとのダブルパンチで呪いが発生したってわけ。」

「やっぱ、墓とかって出やすいの?」

「墓地そのものじゃなくて、墓地イコール怖いと思う人間の、心の問題なんだよ。」

『心の問題…』

「あぁ、学校とかも同じ理由だったな。」


もうすっかり機嫌を直したのか、けろっとした顔で質問をした虎杖くんに答えた伏黒くんにぎょっとした顔で野薔薇ちゃんが口を開く。


「ちょっと待って、コイツらそんなことも知らないの?!」


その野薔薇ちゃんの発言も、その通りである。野薔薇ちゃんや伏黒くんは元々入学していて、呪いのことは分かっているだろうけど、私と虎杖くんはまだ全くの素人である。
野薔薇ちゃんの発言に苦笑いしながら、事情を軽く説明すると、


「飲み込んだ?!!特級呪物を???!!!」

『うん。』

「うっわ、ありえない、衛生観念キモすぎ、無理無理無理!!!!!!」

『わぁ、全力否定だぁ…』

「それには同意だ。」

「なんだと?!!」


絵に描いたような勢いで引いた野薔薇ちゃんをクスリと笑い、五条先生が口を開く。


「君たちがどこまでできるかが知りたい。ま、実地試験みたいなもんだね。…野薔薇、悠二、それとなまえ。3人で建物内の呪いを祓ってきてくれ。」

「ゲッ!」
『え?』


突然の話についていけず、思わずこぼれた声が野薔薇ちゃんとかぶる。
そんな私の横で虎杖くんが心底不思議そうに首を傾げる。


「あれ、でも呪いは呪いでしか祓えないんだろ?俺、呪術なんて使えねーよ?」

『あ、それは私も…』


虎杖くんに同意して小さく手を挙げると、こちらを向いた先生が含み笑いをしながら私たちを指さす。


「悠二はもう半分呪いみたいなもんだから、体に呪力が流れているよ。それに、なまえも大丈夫だよ。」

『はぁ…確かに…?』

「でもま、呪力のコントロールは一朝一夕じゃいかないからね。これを使いな。」


そう言った先生が私と虎杖くんに何かを渡す。
それを受け取ってまじまじと見ると、どうやら鎖鎌のようなもののようだった。
鎖はレザーバンドで止められており、鋭い刃の部分にもレザーケースが付いている。重りらしき部分はダイヤ型のような形をしていて、見た目よりも重くなっていた。

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