死んでしまった物語・2





「へえ。ここがウワサの天空城か……」

飛行船から天空城に降り立つと、コンウェイが興味深そうに言った。
私は天空城に来て、何故か安堵感を覚えている。
わたしは天空城には来た事がないが、空気がやはり天上界と同等なんだろう。
どことなく、落ち着く……。
しかし安堵感と同時に不安も感じていた。
思い出す恐怖とでも言うのか。
今までの頭痛など比ではない。

「行くわよ、みんな。マティウスなんかに創世力は渡しちゃダメ」

アンジュの言葉に、みんなが頷く。
そして、風が妙に穏やかな天空城を進む。
私もみんなの後を追うように一歩進んだが―――。

「……いたたたた」

何の前触れもなくこめかみ部分に軽い痛みが襲いかかって、邪魔をする。
激痛という訳ではなくて、チクリチクリとつつかれるような痛みであるから、タチが悪かった。

「……はぁ」
「何、リトス。あんたも頭痛?」

私が頭を押さえていると、イリアが力なく微笑んで私のこめかみを人差し指で突いた。
あんた“も”……という事なのだから、イリアも現在進行形で頭痛に悩まされているのだろう。

「お互い厄介ですね」
「……まぁね」

いつものような明るさも元気もない。
イリアは迷子になりかけている。
直感的にそう思った。
……私が迷子になっているのは構わないが、イリアまで迷子になるのは嫌だった。
こんな苦しみは知らない方がいいに決まっているから……。

「……高い所は空気が薄くなるって言いますから、そう思うことにしましょう」
「そう思おうとしてる時点でどうなのよ」
「気の持ちようって事です」
「あんたが言っても、素直に頷けないのは何でだろう……」
「私自身が実践できていないからでしょうね」

そう。私が言っても説得力などない。
占い師なんて他者を導く仕事をしているが、私が誰かを導く資格なんて本当はないのだ。

「リトス、イリア?どうかしたの?」

私達が付いてきていない事に気付いたルカが私達を心配してか、戻ってきた。
彼はイリアの顔色の悪さに気付いたらしく、心配そうな眼差しを彼女へ向けた。

「イリア、大丈夫……?無理しちゃダメだよ」
「わ……わかってるわよ!さあ、行こ!おたんこルカ!リトスもね!」
「……はいっ」

イリアは、健気で強い子だ。
大丈夫。
彼女は迷子にならない。
これは、確信に似た予感だった。

……イリアに比べて、彼女の前世のイナンナ様は……。

イナンナ、様は……。

「……いたっ」

頭痛が襲ってくる間隔は確実に、刻々と短くなってきている。
まったく、厄介な前世だ。
ため息をついて、私は今度こそ足を進めた。
頭痛が止む事はないが、無視するしか対処法はない。

静寂に満ちた天空城を大した会話もなく進んでいくと、点々といくつかの石像が佇んでいるのが見えてきた。
一番近い石像に近付いて、ルカがまじまじと不思議そうに見つめる横で、私は「ああ」と思い出す。

「これは、確かセンサスの兵士……ですね。私、よく殺してました……」

私……というか、わたしたちが、だが。

その石像は、センサスの兵士で間違いがなかった。
人にも動物にも見える不完全な神……。
大抵の神がこんな姿だった記憶がある。

「どうしてこんな所に石像が……?」
「そうそう。センサスの兵士らが天上界崩壊のとき、そのまま石になってん。そやから、それはただの石像やのうて神さんの亡骸やね」

……元々生きていた姿のままで数千年このまま……?
どんな気分なのだろう。
孤独に苛まれる事もあるんだろうか?

関心があったが、私はそこで気付き、考えるのを止めた。
この石像がこの兵士の亡骸だと言うのなら、この石像はある種死体。
ならば、気にする必要などない。
死体には感情も使命もないのだから。

「エル、どうしてそんなことを知ってるの?」
「前にも言うたやん。天上界が崩壊した後もウチだけが……ヴリトラだけがひとり残ったって。そやから、天上界の最期はウチが看取ったようなもんやな」

エルとアンジュの話を端々と聞きながら、私は石像から目をそらした。

「……これ、は……?」

死体である石像が見たくなかった訳ではない。
覚えのある匂いが花をくすぐってきた為、そちらに顔を向けてしまった。

「……!この花は……」

匂いの先には、桃色の花が咲いていた。
引き寄せられるかのようにその花に近付いて、私は指で花弁を撫でた。
種類も匂いも、同じ。
サクヤ様の花と、同じ。
これといった確証などはないが、この花はサクヤ様の花だと思った。

「……きれい、ですね」

純粋にそう思った。

よく、天上界が滅んで尚、この美しさを保っていられるものだった―――。




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