雪が解けた天空へ・4





「ま……まあ、それはそうと、天空城に創世力があるって分かったんだよね?」
「そうだよ。マティウスの手に渡る前にオレたちが手に入れちまわないと!な?」

万事解決……といった雰囲気が流れる。
しかし、私は胸のざわつきが収まっていなかった。
嫌な予感をひしひしと感じている。
……ほら、よくあるじゃないか。「一難去ってまた一難」という、非常にありがたくない言葉が。

私の嫌な予感を確信に持っていく声は、すぐに聞こえた。

「……それは困るな」

後ろから。
聞き覚えのある女の声。

「マティウス……ッ!!」

後ろを振り返ると、ガルポスで一度会ったきりの不気味な仮面の女性が佇んでいる。
横にはチトセさんとシアンくんも従えていた。

「これは驚いた。天空城が地に落ちることなく、まだ天にあったとはな。いくら地上を探しても創世力が見つからぬはずだ」

彼女は天上城を見上げる。
仮面のせいで、どんな表情をしているかまでは分からなかった。

「天上城……天上界を滅ぼすために創世力の使われた場所……。その在処としては、理にかなっている」
「創世力の使われた場所……?どうして、そんなことを知ってるんだ……。おまえは、一体何者なんだ!?」
「そうか。私が誰か、分からぬか。ハハハハハ……いいだろう。これを見れば多少の心当たりもあるのではないか?」

そしてマティウスは、おもむろに自身の仮面を脱いだ。
素顔が明らかとなる。

艶やかな薔薇色の髪。
美しい宝石のような翠の瞳。
金の髪飾りが、よく栄える。
顔面の左側は髪に隠れているが、そんなの関係ない。
顔の半分が隠れていても……それは絶世の美女と呼ばれるに値する風貌だった。

その姿は―――胸の奥に闇を深く根付かせる。

「あれは……!」
「そんな……その顔は、イナンナ……?どうして……」

マティウスの素顔は、イナンナ様の生き写しであった。
それだけで十分うろたえるに値するのだろうが……。
私は彼女に、違う揺さぶりをかけられていた。
どうやら私は明確な殺意と憎悪を、何故かマティウスに向けているようだ。

柄にもなく、ハッキリと……「殺したい」。

そう思った。

それは、テュケーの顛末を思い出して、ルカとスパーダに抱いた殺意と似ている。
もしくは……それ以上。

「創世力が天空城にあると判ればこちらのもの。ちょうどいい、アルベール。この船は我が教団が接収させてもらうぞ」

マティウスは私達を嘲笑いながら、チトセさんとシアンくんを引き連れて飛行船に乗り込んだ。
飛行船は私達が止める間もなく飛び立った。

「ど……どーすんだよ!あいつらに先越されちまうじゃねェか!」
「ただちに別の船を用意させよう」

文字通り、助け舟を出してくれたのはアルベールさんだった。

「なんや自分。協力してくれるんかいな」
「オ……オリフィエルに……いや、アンジュに逆らって、お尻ペンペンはごめんだからね」
「……アルベール」

アルベールさんの発言は、たぶん茶化すようなものではなく、本気だろう。
彼の顔は真っ青だ。

マティウス達が奪っていった飛行船よりは小さい飛行船がやってくるまでに、そんな時間はかからなかった。
飛行船に乗り込もうとする私達……というかアンジュに対して、微笑む。

「アンジュ、気をつけて。必ず戻っておいでよ。その飛行船は君と空中デートを楽しむために特別に用意させたものなのだから」
「そ……その件に関しては戻ってからゆっくり話しましょ。さあ、行くわよ、みんな!」

珍しく焦っている様子のアンジュにイリアとエルが意地の悪い笑顔を浮かべていた。
もしかしなくても、からかうつもりだろう。
返り討ちに遭わない事を切に願う。
私は苦笑しながら飛行船に乗った。

「飛行船か……」
「僕、空を飛ぶなんて初めてだよ」
「ああ、俺もそう……」
「じゃあリカルド、任せたからね!」
「ん?何をだ?」
「もちろん、飛行船の操縦だよ!できるでしょ?当然、できるよね?」
「あ……ああ、もちろんだとも」
「リカルドってホントになんでもできるんだね!やっぱりすごいや!」
「まあ、戦場ではなんでもできるヤツが重宝されるからな」
「さっすが頼りになるなぁ。じゃあ、ジャマしないように僕は離れてるよ」

ルカは操縦室を出て行った。
今一連の流れの中で、リカルドさんの顔色がいつもより悪くなっているのは気にしない事にした。

「……だ、大丈夫だよな。俺、操縦……できるんだよな?」

そんなリカルドさんの発言も、私は聞かなかった事にする。

「キュキュ、心配。リカルド、見たことないくらい、顔悪い……」
「し……失礼だぞ。それを言うなら顔色が悪いだろう」

声には心なしか威勢がない。
……いよいよ不安になってきた。

「ホントにだいじょぶか?鉄、空、浮かない。キュキュ、とても心配……」
「て……鉄の船だって海に浮くだろう。大丈夫だ!……たぶん」
「それ、違うリクツ。キュキュでも知てる……」
「意外と細かいヤツだな……。……ああほら、見ろ。リトスのアホ毛だって重力を無視しているだろう。大丈夫だ」
「どういう、意味でしょうか?ちっとも分からないんですが」

生まれて初めてリカルドさんに殺意を抱いたかもしれない。
リカルドさんはそんな私の殺意を感じてか、操縦桿に向き合う。

「イチかバチかだ。行くぞ!浮上開始!その後、全速前進!」

マティウス達が乗る船が見えて……私達の乗る飛行船は、それ目掛けて突っ込んだ。




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