緋の希望絵画 | ナノ

▽ ねぇ、見てる?・3



食堂に全員が集まると、石丸くんが手を叩いてみんなの注目を集めた。

「諸君ッ!調査お疲れだったな!!どうだった?新しい発見はあったか!?」

その問いに山田くんと朝日奈さんが目を輝かす。

「図書室がありましたぞぉッ!」
「プールがあったよ、プール!トレーニング機器が充実した更衣室もッ!!」

この二人のテンションは異常に高い。
逆に大神さんは暗かった。……あ、いや、テンションの高い大神さんっていうのも、想像できないけど。

「だが結局、出入口らしきものはなかったな…」
「なに、しょげ返る事はない。僕の大発見を聞きたまえ……なんと、この寄宿舎にある倉庫と大浴場に入れるようになっていたのだッ!!しかも倉庫には食料や衣料などの生活必需品が大量に保管されてあった!頭悪いほど大量にだぞ!」

頭悪いほどに、大量に……。
い、意味は分からないけど、良いことなんだよね……?

「で……肝心の出口はどうだったんだ?」
「それは……えーっとだな……」
「その倉庫には脱出に使えそうなモンはなかったのか?」
「い、いや……残念ながら……」

大和田くんが呆れ返っている。
むしろ……怒ってる?

「……ったく、オメェらよぉ……新しい場所に行けるようになったとか、はしゃいでる場合じゃねーだろ……俺らは閉じ込められてんだぞッ!!出口を探せっつーんだよ、出口をッ!!」
「お、大和田くんっ……?」
「まぁまぁ、そう目くじら立てても仕方ありませんわ。適応ですわよ適応……楽しく閉じ込められましょう」
「アホが。言ってろ……」

大和田くん……またイライラし出した。また焦り出した。
さっき、落ち着いたのに……。

「今日はもうこれ以上成果もないみたいだし、解散でいいわね?」
「あ、あぁ……そうだな……」

なんだか……一気に重い空気になっちゃった。
期待させといて裏切る……これが黒幕のやり方、か。
私はため息をつきたいのをなんとかこらえて、軽く背筋を張った。背中のどこかがパキッと音を出して苦笑する。

「戸叶さん。ちょっといい?」
「あ、霧切さん?なに?」

霧切さんは私を手招きして、小さな、私しか聞き取れないような声で言った。

「……彼が変な考えを起こさないよう、見張っておきなさい」
「はっ?」

私は霧切さんの言葉の意味をすんなり受け止め切れなかった。
彼っていうのが、大和田くんだという事だけ、何故か理解できた。

「な、なんで……?」
「危険と判断したからよ」
「き、危険って……!」
「何なのかは知らないけど、大和田君は焦っている。ここで“動機”なんて渡されたら、何を考えるか分からない」

霧切さんの言葉は不快だった。
けど、的を射ているような気がして、重かった。

「……見てなさい。あなたにしか出来ない事よ」
「……うん。見てるよ。私はいつも大和田くんを見てる……問題なんて、ないよ」

私はまるで自分に言い聞かせるように言った。
霧切さんは私の不安を感じ取ってか、私に向かって軽く微笑む。

「あなたを不安にさせようとしている訳じゃないわ」

それだけ言い残し、霧切さんは去った。

「……うん」

霧切さんがいなくなってから、私は遅れて返事をした。

「ね……大和田、くん?」
「何だ。……あ?なんか顔暗いな、流火。……あ。あの女に何か言われたかっ!?」
「あっ、ちっ、違うよ!」
「じゃあ、なんだよ」
「……」

私は何も言わない。

「おいっ?」

私は、大和田くんから離れる。
距離をとって、彼に精一杯の笑顔を見せつけてやった。

「なんでもないっ!」

笑いながら、私は走り出した。
勢い良く食堂を飛び出した。

『見張っておきなさい』―――霧切さんの言葉が耳に張り付く。

何故か、泣きたい気分になった。
走るスピードも落ちて、私はふらふらと浮き足立ちながら学園エリアに入った。

角を曲がって。

私はぶつかった。

「うわっ!」
「きゃっ!」

ぶつかった私は転ぶ。
尻餅をついて、とうとう涙が目に溜まった。
別に転んだから泣く訳じゃない。
精神的にもう限界だっただけだ。

「……っう…うぅ……」
「わっ、ちょっ、ちょっと!?」

私にぶつかった人物が焦り出す。
そういえば、私は誰にぶつかったんだろう……。

涙を拭いながら、私は顔を上げてみる。

「だ、大丈夫?戸叶さん……」
「―――」

ぶつかったのは、

『超高校級の幸運』……苗木誠だった。

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