緋の希望絵画 | ナノ

▽ ねぇ、見てる?・4



それから───私は苗木くんと共に学園の探索することになった。
さっきは結局、水練場しか見ることが出来なかったから。
寄宿舎エリアの貯蔵庫と、大浴場を調べたところで私はため息をついた。

「どう思う。苗木くん」
「どう思うって、さっきの話?」
「うん……」

さっきの話というのは、私が転んで涙目になった直後の話である。
その時私は、もうほとんどヤケというか吐き出すようにというか。
思っている事を苗木くんにそのままぶつけたのだ。

回想すると、こう。

『どうしたの……戸叶さん。大和田クンは?一緒じゃないの?』
『知らないもん……』
『えっ、ケンカ?』
『……違うよ』
『じゃあどうして……』
『だって、大和田くん機嫌悪いんだ!なんか知らないけどいつもよりイライラしてて怒りっぽい!霧切さんも霧切さんで、大和田くん危険だから見張れって……見張るってなに!大和田くんがまるで、まるで人をこ、殺すみたいな言い方!私……私は…………うわあぁぁぁぁっ……』
『わっ、戸叶さんっ!な、泣かないで!こんなところ大和田クンに見られたらボクが締められちゃうよ!……じゃなくて、とにかく泣き止んで?大丈夫だからさ!』

……回想終了。
泣き止んだ私は、大和田くんに会うのが何故だか気まずくて、こうして苗木くんと一緒にいる訳だ。

「戸叶さんが聞きたいのって、大和田クンを見張らなきゃならない理由?」
「うん……霧切さんは、大和田くんが危険だって言った。でも私は、大和田くんが危険だって思わないんだ」
「……いつも一緒にいる戸叶さんが言うんだから、大丈夫なように思えるけどね」
「安心、できないでしょ?」
「うん……まぁ……」

苗木くんが苦笑いする。
何故安心できないか……それは極めて単純で、馬鹿馬鹿しい理由。
“霧切さんが言ったことだから”だ。
彼女が言った言葉にはおかしな力がある。
彼女の言葉は意味深で、結果重要な気がしてならない。
言葉には言霊とかいう力が宿っているらしいが、きっと霧切さんはその能力者か何かなんだ。
じゃなきゃ、私がこんなに大和田くんのことで悩むはずがない……。

「でも、大和田クンは仲間を殺すような人じゃないっていうのは戸叶さんが一番良く知ってるんじゃない?霧切さんの言葉は気になるけど……そんな気にし過ぎるのもよくないと思うよ」
「……私が言うのもなんだけど、初日に彼に殴られて気絶した人がよくそんなこと言えるね」

普通自分に暴力を振るった人間に対しては少なからず嫌悪を抱くんじゃなかろうか。
苗木くんが、平和主義者なだけ?

「実はさ、何回か大和田クンと話す機会があって話してたんだ」
「……へぇ、話してたんだ」
「それでいろいろ話聞いてたら、極悪人って感じじゃないなぁって思って」
「……そりゃそうだよ!暮威慈畏大亜紋土は、決して極悪人の集まりじゃないもん。暴走族ではあるけど……でも、大和田くんやおにぃたちの誇りだもん!」
「うん、彼も似たようなこと言ってた」

苗木くんは楽しそうに笑う。
少し意外だった。
苗木くんみたいな人は、暴走族の類の荒い人たちに理解なんて示せないんだろうなって思ってたから。
何だ……苗木くんって普通に見えるけど、結構話を理解してくれる人なんじゃないか。
さやかちゃんが好感を抱くのも分かる気がする。

「大和田クン、キミのことも話してくれたよ。どれだけ戸叶さんが大切か分かる」
「……私の保護者かっての」
「彼は本当に戸叶さんを心配してるんだよ」
「……まぁ、妹みたいなもんだしね」

苗木くんは私のその言葉に「うん」という短い言葉を僅かに濁して呟いた。

「とにかく……大和田クンがキミを裏切ることはないから大丈夫だよ」

……苗木くんが大丈夫って言うと、本当に大丈夫な気がしてきて不思議だった。

「もちろんボクもキミを裏切らない」
「うん。それはさやかちゃんの時に実証済み。救いようのないお人好しなんだって分かる」
「戸叶さん……」
「さやかちゃんのことで忙しい時に君はさやかちゃんのベッドでグースカと寝てたんだからさ。……もし次があったら今度はちゃんと働いてね」

もちろん、もし次なんて要らない。なくていい。
殺人も殺人未遂も学級裁判とかいうやつも。
私はそんな色、知りたくない。

「二階は……水練場は見たから、図書室だね。行こう」

私は苗木くんの服袖をとって引っ張る。

「ちょっ、ちょっと、引っ張らないでよ、戸叶さん!」

苗木くんから文句が聞こえたが、聞こえないフリをした。
顔だけ振り返って見た苗木くんの困り顔は、私の好きな困り顔に似ていた。

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