必殺技診断

残りの子供達に念の修行をさせることにした。前のように無理矢理起こそうかとも思ったが、ふとした気まぐれで、どうせだったらじっくり育てようと思い瞑想という方法をとった。
するとどうだろう、彼女達は予想より大分早くに精孔を開けたのだ。特にシロナとシズクは脅威的な速さだった。目覚めさせるのに才能があるやつでも数ヶ月、早くて1ヶ月かかる所をシロナは1週間、シズクは2週間でやってのけたのだ。

こんなに才能のある子供は初めて見た。南区にも何人か飛び抜けて強い子達が居ると小耳に挟んでいるが、この2人はそれに劣らないはずだ。


「先生?」

「…なんでもないわ。ごめんなさい」

彼女達が、この極上な果実達がこれからどれほど美味しく実るかを想像した。自分の口角がゆるゆると上がっていくのが分かる。あぁ、この高揚感を味わいたいが為に私は子供を拾っては念を覚えさせて育てるのだ。彼女達はこれから大人になり、いずれはこの街を出ていくだろう。二度と戻って来ないかもしれない。それでもいい。ただ私は見届けたいのだ。この子達が今後どんな道を歩いていくのかを。どんな風に実るのかを。

  

念の修行を始めて半年が過ぎた。念を使うと普通の組み手の倍疲れるので毎日が憂鬱だった。前から思っていたことだが、マリア先生は護身術を教えてくれる時、スパルタの悪魔と化すのだ。綺麗な笑顔も心なしか通常の二割り増しで輝いているような気がする。本当に勘弁して欲しい。修行が厳しすぎて、日を追うごとに先生への恨みが積もったが、そのスパルタのお陰でなんとか発以外の四大行は及第点をもらうことができた。応用はまだまだだが。

そして今日はみんなで水見式をする日だ。なんでもこれで自分のオーラがどんな系統なのかを調べて、発…所謂必殺技、自分だけの能力を作る参考にするんだとか。

アビが水を入れたコップを持ってきて、薄汚れたビニールの切れ端を浮かべる。

「じゃあまず俺が手本を見せるぜ」

よく見とけよ、と言うなりアビが手をかざし、コップを包むように練をした。するとコップから大量の水が溢れ出す。

「水の量が変わるのが強化系だ。系統ごとに反応が違うからな。それで自分の系統を調べるんだ。ほら、順番にやってみろ」

非科学的なことをいとも簡単にやってのけたアビがなんだか輝いて見えた。何これ超カッコいい。自分もこれから同じことをやると思うと、ドキドキ胸が高鳴っていく。

みんな同じ事を思ったのか、我先にとやろうとしたので収拾がつかなくなり、結局ジャンケンで勝った順に水見式をするというところに落ち着いた。


『最初はグー!ジャンケン、ポン!!』

結果、シズク、エシラ、アリス、そして私の順番に決定した。こんな時に限って一番に負ける自分の運の無さが恨めしい。

「じゃああたしからだね」

心なしか得意げな顔をしてシズクがコップに練をする。


「うわ、何このゴミみたいなの」

コップにはよく分からない物体が沈んでいた。本当に人それぞれで違う反応が出るようだ。派手に水を溢れさせたアビに比べるとなんか地味なような。

「水の中に不純物ができたな。この反応は具現化系だ。性質は…まぁ名前通り、オーラを物質化することができる」

「ふーん。なんか思ったより地味だね」

「こんなもんだろ。ほら、ちゃっちゃと次いくぞ。 」

「次は私だわ」

続いて2番手のエシラが練をする。が、しかし何の反応もない。しん、と辺りが静まり返った。エシラがジロリとアビを睨む。

「…ちょっとアビ、なんの反応もないのだけれど」

「んなこたねぇよ。おいシロナ、お前ちょっとこれ飲んでみろ」

不思議に思って好奇心のままにコップの水を飲んでみた。飲んですぐ口を中心に痺れが走り、思わずむせる。

「〜〜〜っ!!すごい辛いんだけどっ!」

「こんな風に水の味が変わるのが変化系だ。オーラの性質を変えることができる」

しれっと解説するアビを睨んだ。こいつ、私で実験しやがったな。

「…なにも私に飲ませなくても」

「ま、細けぇことは気にすんな。じゃあ次、アリスやってみろ」

「……分かったわ」

アリスもエシラと同じ変化系で、水は苦かったらしい。みんなで協力してアビに無理矢理全部飲ませたら顔を青く苦しんでた。ふふん、ざまぁみろ。

「じゃあ最後は私だね!」

監督者がダウンしているがそんなの知ったこっちゃない。こっちは早くやりたくてうずうずしてるのだ。これくらいのお茶目は許してほしい。みんなと同じように練をすると、水がギュッと凝縮して、薄く透明な物がコップの底にコロンと落ちた。

「何これ?」

みんなでコップの中を覗き、首を傾げる。うーん、アビに聞きたいけどあいつ今ダウンしてるし…あ、

「….これは特質系だ」

『特質系?』

いつのまにかアビが復活していた。けれどまだ顔色が悪く、まださっきの衝撃からぬけだせていないらしい。

「あぁ、強化系は物の持つ働きや力を強くし、変化系はオーラの性質を変え、放出系はオーラを飛ばし、操作系は物質や生物を操り、具現化系はオーラを物質化する。
そして特質系はこれらのどれにも当て嵌まらない、特異なものだ。よかったな、超レアらしいぞ」

レアなのは転生したこととかが関係してるんだろうか。でもそれよりコップの中にあるあの透明な物体が何なのかが気になる。ちょい、と取り出した。

「….これって、」

指先でつまんでいるそれは紛れも無い、前世で私が愛して止まなかったカメラのレンズだった。

冒頭は別視点となっています。分かりづらくて申し訳ない….