動かせるだけの執事を使いパドキア中の都市を一通り見て回るように命令した。全てはウルを連れ戻すため。だが今のところ特にこれと言った情報は入って来ない。ミルキに空港の搭乗記録などを探させたが手応えなし。適当に高飛びしてもらったら捕まえるのも楽なのに。
コンコンと扉がノックされる。入るのを許可すればツボネとアマネが入ってきた。
「どうだった?」
「はい、見つかりはしたのですが…」
それを聞いて少し期待したのに、保護するまでには至れませんでした、というツボネの言葉に殺気が溢れ出して部屋に充満する。父さん直属の癖に、使えない奴。
聞けばウルが路地裏に入っていったと思ったらもう居なくなっていたらしい。
「何それ、円にも引っかからなかったの?」
「はい、地面の下に薄っすらと気配を感じたのですが、そこから曖昧になってよく分からなくなってしまい、結局そのまま逃げられてしまいました」
「…成る程ね。下に潜られて、気配まで探れないんじゃ打つ手無しか。でも、幾ら念の才能があったとしても、ウル程度ならお前達でも捕まえることは出来たはずだ。そうなる前に」
「いえ、それが…」
なかなか距離を詰めることができなかったのです、アマネの言葉にビキッと青筋が浮かんだのが分かった。こっちは言い訳を聞きたい訳ではない。本当に使えない。親父には怒られるかもしれないけど、やっぱこいつを殺そうか。
「ま、まるで此方の動向が分かっているかのように動かれるんです!気配は完全に絶っていたのにも関わらず、です。ようやくお嬢様の姿を確認できた時は、キルア様の証言通り、頭にウサギの耳がありました。恐らく、ウルルお嬢様には地面に潜る他に、あの耳を使った円の様な効果を持つ能力を持っていると思われます」
…複数の能力を持っている、か。前者の念はともかく、後者は厄介だ。それに使っていないだけで他の念を隠し持ってる可能性も捨てきれない。
まいったな。他の執事はともかく、ツボネを撒けるとなるとこれは少し面倒なことになりそうだ。俺や父さん達でも捕まえるのは容易では無いかもしれない。
念能力…邪魔だな。家に連れ戻したとしても、また家から出られると厄介だ。そしてそのウルの行動がキルにも悪影響を与えかねない。あいつは今大事な時期だから殺し以外の事に興味を向けられては困る。さて、どうしようか。その時ふといい考えが思い浮かんだ。
「そ、報告ありがと。もういいよ。引き続きウルの動向を探って」
2人を下がらせた後、携帯のアドレス帳を開いてそこに登録されている自分の数少ない知り合いの名前を押す。滅多に電話に出ない奴なので何回か掛け直すことになると思っていたが、意外にも数回のコールで目的の相手と繋がった。
「…あ、もしもしクロロ?」
『どうした?珍しいな、イルミから掛けてくるなんて』
「うん、ちょっとね。頼みたい事があるんだ」
『なんだ?俺は殺し屋じゃないぞ』
幻影旅団団長、クロロ=ルシルフル。父が旅団の団員の暗殺を遂行したのをきっかけに関わりを持った。そんな彼は面白い念を持っている。
「殺しだったらわざわざ頼まないよ。妹の念能力を盗って欲しいんだ」
『…お前、妹なんていたのか?』
「あれ、言ってなかったっけ?まぁいいや。その妹がさ、家出したんだ。連れ戻そうとしてるんだけど、あいつの能力のせいで捕まえるのに苦労しそうなんだよね。それに家に連れ戻した後もまた出ていかれても困るし」
『それで俺に盗んで欲しいというわけか』
「そういうこと。妹…ウルは特質系だから、レアな能力には違いないと思う。どう?結構いい話じゃない?」
『見返りは?』
「…次に依頼するとき、七割引で受けてあげる」
電話越しにクロロが笑ったのがわかった。
『取引成立だ』
「オーケー。じゃあ妹を見つけ次第連絡するよ」
ピッとボタンを押して電話を切った。これで後はウルがどこにいるかを探すだけだ。結構手間がかかりそうだけどあいつは今までロクに外に出たことがない。それに昔から頭は悪くはなかったが、肝心なところで馬鹿だった。とどのつまり、詰めが甘いのだ。いつか必ず尻尾を出すはず。
念を奪うことはすなわちウルの才能を潰すことに繋がる。気の毒に思うし、罪悪感が無いと言えば嘘になるがしょうがない。だって勝手に家から出て行ったお前が悪いのだから。悪い子にはそれ相応の躾をしなければならない。それが自身の弟妹に対する教育、いや愛だ。
ウルル、お前は必ず俺が連れ戻す。